サンキュー、ボーイズ

2001/12/25 SPE試写室
実話をもとにしたドリュー・バリモア主演のヤンママ奮戦記。
監督は『レナードの朝』のペニー・マーシャル。by K. Hattori

 『ビッグ』『レナードの朝』のペニー・マーシャル監督最新作は、ドリュー・バリモア主演のトゥルー・ストーリー。15歳で母親になったひとりの女性が、ほとんど女手ひとつで子供を育てながら作家になるまでを描く。芸達者なバリモア嬢は、この映画で15歳から35歳までのヒロインを熱演。ちなみに本人は26歳なので、ちょうど上下10歳ほど年齢にサバを読む勘定。物語は1960年代に始まり、1980年代までを描いている。時代の流れをファッションや音楽の変化で表現しているのだが、映画を観ると、この時代がアメリカ文化にとって大きな転換点だったことがわかる仕掛けだ。

 映画はヒロインが35歳になった'80年代を起点に、それ以前の20年を回想する形式になっている。'60年代初頭は、第二次大戦後の古き良きアメリカ文化の名残がある。しかし表面的には穏健に見える社会も、十代の母親の出現に象徴される性モラルの低下や、ベトナム戦争の泥沼化などが象徴する退廃を見せ始めている。アメリカ文化の「健全さ」が足下から揺らいでいるのだ。これが一気に表面化するのが'70年代のヒッピー文化であり、ドラッグのカジュアル化だった。'80年代にはトラッド系のこざっぱりとしたファッションが主流になるが、その一方で'70年代から続くドラッグ禍から抜け出せない人々も生み出している。21世紀の現在につながるあらゆる要素は、この映画に描かれた20年の間にほぼ出つくしていると言ってもいいのではないだろうか。

 映画の中では一部の子役を除外し、ほぼすべての俳優がひとりで20年分を演じている。ドリュー・バリモアがハイティーンを演じると『25年目のキス』のニセ高校生を連想してしまうのだが、ちゃんと10代の少女に見えなくもないところは大したもの。むしろ35歳の場面の方が苦しいような気がする。無理矢理老けさせてしまって、メイクがものすごく不自然。主人公の親友を演じたブリタニー・マーフィは、逆に10代の時の姿が老けすぎかも。じつは僕がこの映画の中で一番すごいと思ったのは、ヒロインの亭主を演じたスティーブ・ザーンだった。この俳優は『ロード・キラー』でも主演のポール・ウォーカーを食う芝居を見せていたけれど、この映画でもあのドリュー・バリモア以上の存在感を見せていると思う。悪人ではないが弱いダメ人間というキャラクターは『ロード・キラー』に通じるが、この映画ではそこに人間の「業」のようなものを滲ませる名演だ。'68年生まれだからもう結構いい年なんだけど、今後の活躍が大いに期待できる俳優だと思う。(映画の最後の方に、ザーンの後妻役で登場するのはロージー・ペレス。なんだかお久しぶりでした……。)

 回想シーンを綴った女性一代記は、マーシャル監督自身が『プリティ・リーグ』でも使っていた形式。でも今回は、もうひとつ物語の焦点が絞り切れていないような気がする。回想の中で語られている物語と、35歳のヒロインが抱える問題がまったく別方向を向いています。

(原題:RIDING IN CARS WITH BOYS)

2002年4月公開予定 日比谷スカラ座2他・全国東宝洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 宣伝・問い合せ:楽舎

(上映時間:2時間11分)

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