Devotion
-小川紳介と生きた人々

2001/12/12 映画美学校第2試写室
『三里塚』シリーズの小川紳介と小川プロの神話に隠された真実。
理想の映画製作集団の実態はカルト教団か? by K. Hattori

 三里塚シリーズなどの作品で有名なドキュメンタリー映画監督・小川紳介と、彼を中心とする映画製作集団・小川プロダクションについて、アメリカの女性映画監督バーバラ・ハマーが取材したドキュメンタリー映画。小川紳介は日本有数のドキュメンタリー作家として世界にその名を知られている。キネマ旬報社から出ている「日本映画人名事典・監督篇」でも当然そのプロフィールや作品歴を紹介している。ところが本作では、この事典に載っているような世間一般に流布している小川紳介の経歴が、じつは本人の自己演出であったことが暴露されてしまうのだ。それだけでも、この映画は映画史的な事件と言えるかもしれない。(ひょっとしたらそんなことは研究者の間では常識で、キネ旬の監督事典でも新しい版では内容が訂正されているのかもしれないけど……。ちなみに僕が利用しているのは'97年発行のもの。)

 小川紳介というのは経歴詐称でもわかる通りかなり不思議な人物だったようだが、この映画は小川紳介に直接アプローチするのではなく、彼が作り上げた「小川プロダクション」という集団を通して小川紳介に迫っていく。映画作りを目的とした集団生活。学生運動の延長上で集まってきた若者たちが、小川紳介というカリスマの魅力によって結びつけられている疑似家族のような集団。小川プロについては、理想的な映画製作コミューンとして伝説化・神格化されている部分も多いように思う。しかしこの映画は、その伝説のベールをひとつずつ引きはがし、神格化されている「理想の映画製作集団」の内部にあるさまざまな歪みと軋轢をあぶり出していく。

 プロダクション内部にあった小川紳介絶対化の意思によって、集団内部が言いたいことも自由に言えないきわめて風通しの悪いものになっていたという事実。スタッフの女性たちに「家事」をさせるのを当然だと考える、旧弊な女性差別意識の横行。「映画製作のために資金を貸した」と考える出資者と、そうした資金は善意のカンパであり、善意に報いるためには良い作品をつくればいいとする小川紳介とスタッフたちの意識のズレ。プロダクション内部のすべての矛盾を、小川紳介個人のカリスマ性によって消化してしまうエネルギー。しかしその矛盾消化装置は、カリスマ小川紳介の体調悪化によって機能を失ってしまう。櫛の歯が欠けるように脱落していくスタッフたち。しかし長年寝食を共にしたスタッフたちは、小川プロをなかなか離れられない。ひとりのカリスマを中心とした集団への濃密な帰属意識を、もとスタッフのひとりは「マンソン・ファミリー」に例え、別のスタッフは「オウム真理教」に例える。

 映画はかなり広範囲な人々にインタビューしていて、そのインタビューで得た言葉と小川プロ作品の断片で全体が構成されている。説明的なナレーションはない。気になるのは、インタビュー取材された顔ぶれの中にカメラマンの田村正毅の姿が見えないこと。当然取材の申し出はあったはずなんだけどなぁ……。

2002年1月26日公開予定 BOX東中野(レイト)
配給:パンドラ 配給協力:BOX OFFICE

(上映時間:1時間22分)

ホームページ:http://www.pan-dora.co.jp/

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