しあわせの場所

2001/12/06 シネカノン試写室
貧乏人の子沢山家庭で長男が結婚を決めた。
描かれているものは「寅さん」の世界。by K. Hattori

 着々と近代化を進める中国では都市部の住宅環境が悪化して、昔ながらの小さな長屋に大勢の家族が同居していることも珍しくない。天津で暮らすチャン・ターミンの一家は、まさにそうした家族の典型だ。母親と5人の子供たちが、わずか二間の家で暮らしている。父親は既に亡くなっているが、このチャン家は貧乏人の子沢山の典型のようなものだ。一人っ子政策の今では考えられない大家族と言えるだろう。長男ターミンは結婚もしないまま、そろそろ中年の域に差し掛かろうとしている。妹である長女アルミンも婚期を逃しかけている。次男サンミンも女に振られてばかり。次女スーミンは病院で看護婦として働いている。末弟のウーミンは大学受験を目指して猛勉強の毎日だ。麻雀をやる人なら「イー・アル・サン・スー・ウー」と数字を数えることができるはず。この兄弟たちの名前を漢字で書くと、太民・二民・三民・四民・五民になる。じつにわかりやすい名前なのだ。

 貧乏人の子沢山は別に不幸じゃない。「私の青空」の歌詞ではないが、狭いながらも楽しい我が家なのだ。一家が「家族だもの、肉親だもの、仕方ないじゃないか」と不便を甘受できるうちは構わない。しかし長男ターミンが近所の幼馴染みユンファンと突然結婚することになってからは話が違う。狭い家は人間がひとり増えたことでますます狭くなる。さらに次男サンミンまで結婚すると言い出して、わずか二間に大のおとなが7人という、超過密状態が出現。ターミンは一家を支える長男として、この事態を何とかしなければならなくなるのだが……。

 中国都市部の下町人情と家族の絆を描きながら、経済発展していく中国社会の姿を庶民の視点で描いた作品。監督のヤン・ヤーチュウはこれがデビュー作。主人公ターミンを演じているのは、中国の人気漫才師フォン・コン。(工場長役でちらりと顔を出しているのが相方らしい。)原作はリウ・ホンの小説「へらずぐち男、チャン・ターミンの幸せな生活」で、これは中国でテレビドラマ化されたこともあるという。映画は1998年に製作され、同時期に封切られた『プライベート・ライアン』を越える大ヒットを記録したという。ここ10年ほどの中国では経済開放政策の影響で昔ながらの生活様式がどんどん変化し、古い町並みも再開発されて次々に近代的ビルに姿を変えていく。同じような中国の社会変化を描いた作品には、『ただいま』や『こころの湯』がある。中国人にとって、この映画に登場する都市と家族の変化は大きな関心事であり、共感を得られるテーマなのだ。そして何より、この映画はじつに面白い。

 この映画には路地裏で暮らす庶民の生活ぶりが、細部まで事細かに描かれている。おそらくこんな一家は、中国でも既に過去のものになっているに違いない。しかしここに登場するチャン一家の中に、我々は「家族の原風景」を見出すことができる。山田洋次の「寅さんシリーズ」を通して日本人が見たのと同じものを、中国人はこの映画の中に見つけたのではないだろうか。

(原題:没事偸着楽 Steal Happiness)

2002年1月26日公開予定 中野武蔵野ホール
配給:オメガ・ミコット

(上映時間:1時間53分)

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