恋ごころ

2001/11/21 東宝第1試写室
パリを舞台にした大人の恋の物語。パリは今も恋の都だ。
ドミニク役のエレーヌ・ド・フージュロルが可愛い。by K. Hattori

 恋人と中途半端な別れ方をして3年。イタリアの劇団の主演女優として、カミーユがパリに戻ってくる。これは彼女自身が決めた人生。今では劇団主宰者のウーゴがカミーユの恋人で、彼女にとって現在は公私ともに充実した時期のはずなのに、パリに戻った途端、彼女はそわそわと落ち着かない。彼女は意を決して、3年前に別れたピエールのもとを訪ねてみる……。同じ頃、ウーゴもまたそわそわと落ち着かなくなっていた。イタリアの劇作家ゴルドーニの未発表戯曲が、どうやらパリに眠っているらしいのだ。それを自らの手で発掘し、舞台で初演するのが彼の夢だ。どこを調べても手がかりが見つからず途方に暮れる彼に、図書館で偶然知り合った女子大生ドミニクが救いの手を伸ばす。これをきっかけにして、ウーゴとドミニクは急速に接近していく……。互いに何も知らない内に、パリでそれぞれ別の恋を見つけそうなカップルのすったもんだを描く、ジャック・リヴェットの監督・脚本作品。主演はジャンヌ・バリバールとセルジオ・カステリット。ピエール役はジャック・ボナフェ。ドミニク役がエレーヌ・ド・フージュロル。彼女は『青い夢の女』で“ほとんど死体”の役を演じていたが、今回は生き生きとした若い女の役。ただしこれはこれで、ちょっとヤバめの雰囲気も漂っていたりする。

 「いかにもフランス映画らしい」と書くと語弊があるかもしれないが、中年カップルが何組も登場するラブコメディなんて、日本でもハリウッドでも絶対に成立しないジャンルの映画だろう。(アメリカでこんな映画が撮れるのはウディ・アレンぐらい。日本は誰もいないと思う。)人間はいくつになっても恋をする。人が年を重ねる毎に成熟して落ち着いてくるなんてのは、世間の都合にあわせた幻想に過ぎない。年をとった人間には落ち着いていて欲しいから、世間はいい年をした大人には文字通り「大人しくあること」を望む。でも心はいつだって、恋を前にすればそわそわするのです。想像の中でなら、人はいつだって馬鹿げた子供っぽい振る舞いをするのです。それを実際の行動に移さないだけの分別や常識が、大人にはある。でもその分別や常識という枷が、恋を前にして動揺するのが大人の恋というものかもしれません。これは恋に向かって闇雲に突っ走る少年少女の恋には見られない、恋愛のアヤというものだと思う。

 劇団を舞台にした話なので、映画の中には劇中劇が何度か出てくる。ただしこれは、それほど物語に大きくからんでくるようなものではない。とりあえず「登場人物が舞台関係者ですよ」というサインとして登場しているようにも思えた。ところがこの劇中劇の舞台が、映画の最後にじつに生きてくる。舞台と日常が逆転し、映画の最初と最後を舞台でサンドイッチする。このエンディングがいい。カメラが劇場の客席の方から、舞台の上に勢揃いした主要人物たちの全体を捉える。映画全体を包み込む幸せな気分が、「舞台」という装置を使ってより大きく増幅されているように思った。

(原題:VA SAVOIR)

2002年正月第2弾公開予定 シャンテシネ
配給:フランス映画社

(上映時間:2時間35分)

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