南極物語

2001/11/09 シネセゾン渋谷
1983年に製作された大ヒット作。南極探検の実話を映画化。
二流の映画だが、それがヒットの要因かも。by K. Hattori

 昭和34年1月。観測船「宗谷」で南極に到着した第三次越冬隊から伝えられたニュースに、日本だけでなく世界中が驚いた。2年前に南極に昭和基地を築いた第一次越冬隊は、悪天候で第二次越冬隊との交代がかなわないまま基地を脱出。犬ぞり用のカラフト犬15頭を生きながら置き去りにしたまま、南極の基地を放棄せざるを得なかった。そのうち2頭の兄弟犬のタロとジロが、世話をしてくれる人間なしに南極の厳しい冬を乗り越え、第三次越冬隊と再会したのだ。この実話をもとに、昭和58年(1983年)に作られたのが、本作『南極物語』だ。この映画は大ヒットし、『もののけ姫』に抜かれるまで日本映画の興行記録を保持し続けた。(現在は邦画として歴代3位。)もともとテレビシリーズとしてフジテレビに持ち込まれた企画だったが、それをあえて映画化したことで、極地でのロケ撮影を含めた大スケールの作品に仕上がっている。監督はこの映画の5年前に『キタキツネ物語』をヒットさせた蔵原惟繕。音楽は『炎のランナー』でオスカーを受賞したばかりのヴァンゲリス。主演は高倉健と渡瀬恒彦。

 この映画を観て泣けるという人が大勢いるようだが、僕はなぜこの映画が感動を生むのかよくわからない。モデルになった実話自体は「感動の物語」だと思うけれど、それをドラマに仕立てる時点でちょっとおかしなことになっているのではないだろうか。南極に置き去りにされた犬たちがどうやって食料を調達し、どうやって生き抜いてきたのかという部分は、映画の作り手が思い描いた完全なフィクション。そこにもっともらしくナレーションを付けて、残された犬たちがいかに勇敢に南極の冬を乗り切り、いかに惨めに死んでいったかを描くという演出はいかにもあざとい。本当にタロとジロと人間たちのドラマを描くのなら、犬たちがなぜ南極に置き去りにされなければならなかったのかという部分にもっと鋭く突っ込んでいくべきだろうし、自分たちの意図とは裏腹に犬を置き去りにしてきてしまった男たちの思いにも踏み込んでいくべきだろう。確かにこの映画でも、第二次越冬隊が基地に近づけなかった理由は描かれている。しかし第一次越冬隊が危機一髪のタイミングで南極基地を放棄してきたというスリルが感じられないため、どうしても犬を残さざるを得なかったという感じが伝わらない。ここがうまく描かれていないから、日本に帰国した男たちの複雑な胸中も描き切れていないように思える。

 結局この映画は、このあたりをムードで押し切ってしまう。高倉健がぐっと歯を食いしばって耐える顔とか、荻野目慶子とその妹が高倉健を非難する表情とか、氷の世界で健気に生き抜く犬たちとか、夏目雅子と渡瀬恒彦による『時代屋の女房』の再現とか……。そして何よりものを言うのは、南極と北極でロケしたという雄大な風景と、高らかに響き渡るヴァンゲリスの音楽。映画の作りとしてはひどく大味だが、このわかりやすさとベタベタの展開が、ヒットを生み出したのかもしれない。

DVD発売記念イベント オールナイト上映
提供:ポニー・キャニオン

(上映時間:2時間23分)

ホームページ:http://www.ponycanyon.co.jp/wtne/dvd/011121nank.html

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