週末の出来事

2001/10/30 渋谷ジョイシネマ
故郷の町で再会した恋人たち。その心に投げかけられた波紋。
自分の選んだ人生を肯定できない男と女の物語。by K. Hattori

 故郷・三峡の町に久しぶりに集まった高校時代の仲間たち。高校を卒業してそのまま地元で警官になったユートンは、久しぶりに北京から戻ってきた旧友たちとの再会を心から喜んでいる。だが夜店の屋台で再会の祝杯をあげようとしたその瞬間、ユートンの妻が現れてあれこれと嫌味たらしく文句を言い始める。北京から戻ってきた顔ぶれの中に、夫のかつての恋人ペイがいるのが気にくわないのだ。翌日ユートンと仲間たちは、長江沿いの景勝地に船で出かける。そこで見つかったのが、「死ぬまであなたを愛す」と書かれた紙切れ。これを一体誰が書いたのかで、仲間内では一悶着が起きる。ユートンはイベント警備の仕事のため一足先に町に戻るのだが……。

 かつては互いに深く愛し合いながら、運命のいたずらに翻弄されて離ればなれになり、今は別々の暮らしをしている男と女。男は結婚し子供をもうけながら、それでもかつての恋人への想いを断ち切れないままでいる。結婚によって踏ん切りを付けたはずなのに、子供が生まれて過去よりも未来に生きなければならないと心に決めたはずなのに、目の前にかつての恋人が現れれば心穏やかではいられない。そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、彼女の側も今現在の恋人との関係に必ずしも満足していない素振りを見せたりもする。互いにもう過去には戻れないと知りながら、それでも過去の甘美な思い出を捨てきれないふたり。この映画はそんな一組の男女を中心に、青春の残滓を捨てきれない大人たちの姿を描いている。

 青春とは目に見えない自分の未来を夢に思い描き、その夢に向かって身体ごと飛び込んで行ける時期のことかもしれない。幼い子供には無限の夢を持つ自由が保障されている。子供はその夢を実現させる能力がないため、夢はいつまでも夢のままだ。だが子供が成長して大人への入口に立った時、その夢は俄然現実味を帯びてくる。その中でどの夢を実現させるか悩み、苦しみ、体当たりでぶつかっていく。それが青春期なのではないだろうか。夢は無限にあっても、自分の身体はひとつだけ。だから人は青春期に悩み苦しみながらいろいろな夢を捨てることで、少しずつ大人になっていく。大人になるとは、無限にあった夢をひとつずつ諦めていくことなのだ。ユートンは都会に出ていく恋人との生活を諦め、結婚して子供を作り大人になろうとした。だが捨てたはずの夢は、そう簡単に息の根が止まらない。心の片隅に打ち捨てられた夢は、時々息を吹き返してユートンを悩ませる。

 今ある「自分」の殻を破って新しい自分を獲得していく主人公を描くのが青春映画だとするならば、この映画は断じて青春映画ではない。この映画の登場人物達は今の自分の姿に不満を持ちつつも、それを完全に否定して新しい自分に生まれ変わろうとする気概や体力を失ってしまっている。主人公たちは「今の自分」に絶望しながらも、その絶望の中で生き続けるだろう。やがて絶望は習い性になる。絶望に苦しまなくなる。その時ようやく、彼らは大人になるのだ。なんか、つまらん話だけどね。

(英題:Weekend Plot)

東京国際映画祭・コンペティション部門
(上映時間:1時間31分)

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