化粧師
KEWAISHI

2001/10/03 東映第1試写室
石ノ森章太郎原作の異色時代劇を椎名桔平と豪華女優陣で映画化。
脚本がまったく駄目なので仕上がりがいいはずがない。by K. Hattori

 石ノ森章太郎の萬画「八百八町表裏・化粧師」を、椎名桔平主演で映画化。原作は江戸後期の戯作者式亭三馬の息子式亭小三馬を主人公にした時代劇だが、映画版は舞台を大正時代に移している。主演は椎名桔平。女優陣はかなり豪華で、菅野美穂、池脇千鶴、いしだあゆみ、柴崎コウ、小林幸子、岸本加代子、菅井きん、柴田理恵など、テレビや映画で見知った顔がぞろぞろ登場する。男優陣も、田中邦衛、佐野史郎、大杉漣、岩城滉一といった顔ぶれ。監督はこれが劇場映画デビュー作となる田中光敏。脚本はテレビ出身の横田与志。

 東京は関東大震災前まで江戸の名残を留めており、それは商家や裏店の庶民生活に顕著だった。大正時代は第1次大戦への参加やシベリア出兵という事件もあったが、日本にとっては戦争もなく平和な時代だったと言ってよい。そこでは江戸時代の名残を留める人情風俗と、西欧風の文明や文化、それに大正デモクラシーがぶつかり合って一種独特の世界を作り出している。原作の舞台をわざわざ江戸時代から大正に移動させたからには、そうした大正の風俗についてなにがしかの配慮が行われたと見るべきだろう。しかしこの映画は、そうした点についてやけに無頓着なのだ。この映画に登場する世界は、江戸でもなければ東京でもない。この映画は時代劇でもなければ現代劇でもない。いったいこの映画は、何が描きたくて大正時代の化粧師を主人公にしたのか。僕にはそれがさっぱりわからなかった。

 この映画が面白くないのは、結局のところ主人公である小三馬というキャラクターに魅力がないからだと思う。小三馬を中心に何人もの人間が現れては消え、数々のエピソードが積み重ねられていく。しかしそうしたエピソードが、小三馬という人間の魅力を深めていかないのがこの映画の欠点だ。人々が小三馬の化粧を特別視するのは、彼の化粧師としての腕はもちろんのこと、彼の人間としての魅力に惹きつけられてのことだと思う。その人間的な魅力が、観客にはたして伝わっているだろうか。小三馬に魅力があることは、女たちが彼をちやほやすることからもよくわかる。でも映画の中には、彼の「化粧師としての腕前」を示すエピソードしかないではないか。無口でニヒルでストイックな小三馬という設定は、椎名桔平の演技プランや監督の演出ではなく、企画や脚本段階でのものだと思う。しかしこんなに陰気な男が、はたして女たちの人気者になれるものだろうか。

 舞台を大正時代に設定したのは、女性の自立を化粧という形で支援する姿を描きたかったのかもしれない。しかし「女性の自立」が、池脇千鶴が字の読み書きを覚えたり女優になりたいと夢見ることだとしたら、ずいぶんと底が浅くないだろうか。ここで彼女が演じている時子という少女と、菅野美穂が演じる天ぷら屋の娘の役割分担が、どう考えてもよくわからない。これも脚本段階でうまく人物配置が考えられていないのです。終わり方もやけに中途半端で、最後まで物足りなさが残ります。

2002年2月公開予定 全国東映系
配給:東映

(上映時間:1時間53分)

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