少女
an adolescent

2001/08/31 メディアボックス試写室
奥田瑛二の初監督作。例によって本人はダメ中年を好演。
ヒロインを演じた小沢まゆの今後に注目したい。by K. Hattori

 人間の愛とは自らの欠落を埋めようとする欲望だと、その昔ギリシャの哲人は考えた。かつて人間は手足が四本、目が4つの姿だったが、それが半身に引き裂かれて現在の人間になったのだという。だから人間は自分から引きはがされたもう片方の身体を探し求め、それと一体になりたいと願うのだそうだ。しかし中国人はもう少し慎ましい伝説を考えた。比翼の鳥という伝説の怪鳥は、雄と雌がそれぞれ翼と目をひとつずつしか持っていない。それは互いの片割れを探して一体となった時、初めて大空高く舞い上がることができるという。比翼の鳥は夫婦和合の象徴として、古くから知られている伝説の鳥だという。ギリシャ人が「今以上の自分」を探し求める伝説を考えたのに対し、中国人が「二人でようやく一人前」という伝説を考えたところがなかなかよろしい。

 この映画『少女〜an adolescent』は、そんな比翼の鳥の片割れを背中に彫ったデタラメな中年警官が主人公だ。演じているのはダメ中年を演じさせれば現在日本一の俳優・奥田瑛二。この映画は彼の初監督作品でもある。原作は連城三紀彦。奥田瑛二が演じている友川という警官は、故郷の田舎町で派出所勤務を大過なくこなす中年男。悪徳警官というわけではないが、飼犬をさらってきて人妻を口説いたり、違法営業の風俗店を脅してカスリを取ったり、官給品のピストルを使って近所の空き地で射撃練習したりするのだから、どう見ても模範的な警官というわけでもない。しかも背中に比翼の鳥の刺青を彫っている。そんな彼が、ある日町で見ず知らずの少女から「私とセックスしない?」と声をかけられる。一緒にホテルに入った二人だが、援助交際にしては素人くさい少女は結局金を受け取ることなく姿を消す。その後もなぜか少女が忘れられず、町の女子高生に片っ端から声をかけて探したが無駄足。だがそれからしばらくして、友川は彼女に再会する。少女はまだ中学生だった……。

 この物語の中で、友川と陽子(少女)は比翼の鳥になぞらえられている。二羽揃ってようやく一人前の鳥として飛び立てる比翼の鳥。一羽ずつでは飛び立つことができない出来損ないの鳥。この映画が切ないのは、主人公たちに年齢差がありすぎるとか、恋に障害が多すぎるといったことではない。友川の背に彫られた鳥が大きく傷ついていることが象徴しているように、この二羽の鳥がたとえひとつになっても、そこには完全な鳥など生まれないことは明らかなのです。このカップルはたとえひとつになっても世間並みの幸福は得られない。友川は傷ついているし、陽子も心に大きな傷を抱えている。その傷をいたわりながら、二羽の比翼の鳥は身を寄せ合って大空に飛び立つことを夢見る。なんとも痛ましいのです。

 人間の汚さや残酷さを、ふんわり包み込む温かさがこの映画にはある。日比野克彦の美術が、映画にファンタジーの色合いを付けているのかもしれない。決して上手ではないが、できたてのおぼろ豆腐のように、やわらかく、ほんのりと暖かく、甘い味わいのある映画です。

2001年9月22日公開予定 大阪OS劇場CAP
9月29日公開予定 シアター・イメージフォーラム
10月6日公開予定 CINETITTA川崎
10月13日公開予定 シネマスコーレ
全国順次ロードショー
配給:ニッポンムービー大阪、ゼロ・ピクチュアズ
(上映時間:2時間12分)

ホームページ:http://www.shoujyo.com/

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