チャック&バック

2001/08/17 TCC試写室
十数年ぶりに再会した幼なじみ同士の悲喜劇。
面白くて、ちょっと切ない。by K. Hattori

 牧草地の土を掘り返してしばらくすると、土の中からたくさんの雑草が生えてくるという。種がどこかから運ばれてくることもあるのだろうが、ほとんどは土の中で休眠状態になっていた種が、外気や光に触れて一斉に目を覚ましたものだ。植物の種は空気や光が遮断された土の中では、人間が考えるよりずっと長い時間を眠ったままで過ごすことができる。数十年。数百年。時には千年以上もの間、深い土や泥の中で種は芽を出す時をじっと待ち続けている。二千年前の種から発芽した「大賀ハス(縄文ハス)」や、800年前の種から芽を出し開花した「中尊寺ハス」は有名だが、こうした種子の休眠は、一種の時間旅行のようなものかもしれない。もちろん人間にこうした能力はないけれど、過去の記憶が何かの拍子に生々しく蘇ることはある。まるで掘り起こされた土の中から芽を出す種のように、記憶の底に埋もれていた過去の出来事がふいに蘇ってくるのだ。

 ロサンゼルスで婚約者カーリンと暮らしているチャーリーは、ロスの音楽業界で頭角を現しつつある若手プロデューサー。ある日彼のもとに、故郷の町で幼なじみバックの母親が死んだという知らせが届く。昔家族と暮らしていた田舎町に久しぶりに戻ったチャーリーは、そこでバックと十数年ぶりに再会する。唯一の肉親だった母を失ったバックを慰めるチャーリーは、十数年前と少しも変わらぬ子供っぽさを持つバックに戸惑いも感じている。逃げ出すようにロスに戻ったチャーリーだったが、バックはそんな彼を追うようにロスに引っ越してくる。「子供の頃と同じように遊ぼう!」とせがむバック。だがその「遊び」の内容が大問題だった……。

 この映画には同性愛的なモチーフがあるのだが、バックのチャーリー(チャック)への気持ちを同性愛者の恋愛感情だと解釈するのはちょっと違うと思う。仮にそれが同性愛感情だとしても、それは幼い子供が同年輩の同性の友人に抱くそれであって、成熟した大人の抱く生々しい感情とは分けて考えるべきだろう。バックは母親が死に、チャーリーと十数年ぶりに再会したことで、自分の中で眠っていた十数年前の感情がそっくりそのまま蘇るのです。まるで小学生時代に校庭に埋めたタイムカプセルが十数年ぶりに掘り出されたように、一度は忘れていた感情が姿を変えずに飛び出してくる。バックは十数年に渡ってチャックのことを忘れられなかったわけではなく、十数年間忘れていた感情を、長い長い時を隔てて取り戻してしまったのだと思う。ちょうど牧草地の土の中から種が芽を出すように、バックの中に埋もれていた感情も一斉に芽を吹き始める。それはバック本人にとっても、まるっきり制御不能な感情なのです。

 バックに向かって「大人になれ!」と諭すチャーリー。これは一種の楽園追放の物語です。チャックとバックは、いつまでも「子供時代」という楽園の中では暮らせない。いつかはそこから足を踏み出して大人にならなければならない。ちょっと切ない気持ちにさせられる映画でした。

(原題:CHUCK & BUCK)

2001年9月公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:K2、日本ビクター 問い合せ:K2エンタテインメント
(上映時間:1時間36分)

ホームページ:http://www.spo-k2.co.jp/

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