リベラ・メ

2001/08/10 イマジカ第2試写室
連続放火魔と消防士たちの死闘を描く韓国版『バックドラフト』。
ドラマが部分の複線がたこ足回線になっている。by K. Hattori

 消防士と連続放火魔の死闘を描く、韓国版『バックドラフト』。火災シーンは確かに迫力満点だが、ドラマ部分に未整理な部分が多く、これに1時間59分かけるくらいなら、内容を整理して1時間40分にした方が感動できたと思う。そもそも登場人物が不必要に多すぎる。中心になる人物を3〜4人に絞り込み、それ以外の人物のエピソードはずっと脇に後退させるべきだろう。ベテラン消防士のサンウ、後輩消防士のヒョンテ、署内の紅一点ミンソン、そして放火犯のヒスがドラマの中心。ところがたったこれっぽっちの人間関係が、ひどくわかりにくいものになっているのはなぜなのか。サンウはかつて同僚消防士インスを火災現場で見殺しにしてしまった過去を持っており、それが負い目になってミンソンと目を合わせることができない。これもまた、よくわからない。ミンソンとインスが恋人だったとか婚約者だったとか、ここには何らかの説明が必要だと思う。3人で写したスナップ写真1枚で説明が済むとは思えない。

 犯人が天才的な放火魔という設定になっているが、彼がその技術をどこで身につけたのかがわからない。少年時代に彼が病院の中で起こした事件も、ほのめかされるだけで実態が不明。ここは映像でほのめかしておいた後、台詞でしっかりフォローしてほしい。犯人が誰なのかは観客の誰もが知っている。問題はその動機だが、これがまたさっぱりわからなくて参ってしまった。放火行為に性的な快感を感じる病的な放火癖の持ち主というわけではないようだが、かといって政治信念を持ったテロリストでもない。子供時代に受けた心の傷が原因になって、その復讐として放火しているらしいのだが、それをロジカルに説明する部分がまったくない。ここでは台詞だけが先行して、絵で説明されているところがないのだ。どうも語り口がチグハグ。クライマックスの大火災については、もう動機と行為の間に接点を探すことすら難しい。なぜ犯人はこうした行為に及ぶのか。観客は彼の言動をもとに、映画を観ながら精神分析しなければならない。観客にそんな手間をかけさせる前に、きちんと誰にでもわかる動機と結果を作っておいてほしい。

 脚本段階であれこれアイデアを突っ込みすぎて、それが未消化なまま垂れ流されているという印象。アイデアを出すのは大切だけど、それを物語の中でどう生かしていくかを考える時点で、切り捨てなければならないアイデアというものもあるだろうに。火災シーンの迫力が半端じゃないだけに、ドラマ作りの雑さが特に目立ってしまうのは残念。映画を観ながら「俺に脚本をリライトさせてみろ!」と思う映画はたくさんあるけれど、この映画なんてその最たるものだ。あ〜もったいないなぁ。

 この映画には釜山のフィルムコミッションが全面協力していて、その様子は何ヶ月か前にテレビニュースで見たことがある。日本でも現在各地にフィルムコミッションができているけど、いずれはこんな映画が日本でも撮れるようになるのかな? う〜ん、難しそうだなぁ。

(英題:Libera Me)

2001年11月公開予定 丸の内プラゼール他・全国松竹東急系
配給:松竹、FRAP.
(上映時間:2時間8分)

ホームページ:http://www.liberame.jp/

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