ピストルオペラ

2001/08/03 松竹試写室
鈴木清順監督の最新作は問題作『殺しの烙印』の続編でありリメイク。
相変わらず物語は支離滅裂だが、映画は滅法美しい。by K. Hattori

 「鈴木清順監督が『殺しの烙印』のリメイク作を松竹で撮影している。主演は江角マキコだ」という話を聞いたのは、ちょうど試写室で鈴木清順特集の作品が上映されていた今年1月か2月頃の話。『殺しの烙印』は昭和42年の日活作品で、あまりのシュールさに日活経営陣が清純監督の解雇を決めたといういわく付きの映画。これは「時代に先んじていた」とか「表現の先進性」とかいう問題ではなく、今観ても本当にわけがわからないのだから、当時の日活経営陣を責めても仕方がない。『ピストルオペラ』は「日本でナンバースリーの殺し屋がある要人の警護を依頼されるところから物語が始まり、謎めいた女に依頼された殺しの失敗を経て、映画の後半は幻のナンバーワン殺し屋との対決になる」という『殺しの烙印』のストーリーラインを丸ごと借りて、まったく新しい映画へと生まれ変わらせた怪作。話の内容も、絵作りも、芝居も台詞も徹底して支離滅裂……。しかしこの映画はとにかく格好良くて、そして何より美しい!

 映画はいきなり沢田研二のアップから始まる。東京駅の屋根で行われる殺し屋同士の銃撃戦。撃たれた男は屋根から転落し、駅舎に宙づりになったままニヤリと笑う。かっこよすぎる〜。沢田研二をいきなり殺してしまうというのも大胆。オープニングタイトルも滅茶苦茶に格好良くてしびれる。江角マキコの和服にブーツ姿というスタイルもなかなか決まっている。エージェント役の山口小夜子もすごくきれい。映画の中で印象的に使われる『殺しの烙印』のテーマ曲に背筋がゾクゾクしちゃう。美術の木村威夫と編集の鈴木晄はいつもの清順組だが、撮影の前田米造と照明の矢部一男はこれが清順監督との初仕事だという。しかし中でも異色のスタッフは、脚本の伊藤和典と特撮の樋口真嗣だろう。このふたりは平成『ガメラ』の印象が強いのだが、「こんな映画も作れるのね」という意外な驚きがあった。

 物語はたぶん一応筋が通っているのだと思うが、それを追いかけていくのは非常に困難。僕も途中で物語から振り落とされた。のぞき込んだ万華鏡をくるくる回転させるように、目の前で見ている風景が次々に姿を変えていく眩暈にも似た奇妙な感覚。強烈な視覚的ショックと、辻褄の合わない物語をいきなり目の前に突きつけられる心理的なショックが相乗効果を生みだして、映画を観ながら意識が遠のいていくような気分を味わえる。

 話がどうこうと言う以前に、映画を構成するパーツとなっているシークエンスやシーン、カットなどが強烈な個性と美意識で完成されており、それらがコラージュされて映画全体を作り上げているような作品。全体を一度に俯瞰することはもはや不可能に近い。一度観たら忘れられずにどうしてももう一度観たくなり、おそらく二度観たら中毒になって何度でも観てしまいそうになる映画。少女・小夜子役の韓英恵にもご注目。元ナンバーワンの殺し屋・花田五郎は、やっぱり宍戸錠に演じてほしかったけれど……。

2001年秋公開予定 テアトル新宿、渋谷シネパレス
配給:松竹 問い合せ:松竹、スローラーナー
(上映時間:1時間52分)

ホームページ:http://www.shochiku.co.jp/pistolopera/

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