カルテット
Quartet

2001/07/16 SPE試写室
作曲家・久石譲の映画監督デビュー作は本格的音楽映画。
青春映画仕立てだが、演奏シーンが最大の見もの。by K. Hattori

 北野武や宮崎駿と言った、現代日本を代表する映画監督たちと仕事をしている音楽家・久石譲の初監督作。脚本は久石監督本人と、『君を忘れない』『ホワイトアウト』の脚本を書いている長谷川康夫(『恋は舞い降りた』の監督)。企画に秋元康の名前があるが、これは音楽を担当した『川の流れのように』からのつながりか。

 学生時代に弦楽四重奏団を組んだものの、コンクールで大失態を演じた学生時代の友人4人組。卒業してそれぞれ別々の道に進んだ4人は、数年後にはもうそれぞれの進路に行き詰まりを感じ始めていた。偶然母校で再会した4人は、再度コンクールにチャレンジすることを決意。練習もかねて4人は日本中のイベント会場や公共施設を演奏して回る貧乏ツアーにでかける。ツアーの中で少しずつ結束していく4人だったが……。

 第1ヴァイオリンの相葉昭夫を演じているのは『ひまわり』の袴田吉彦。第2ヴァイオリンの坂口智子を演じるのは桜井幸子。ヴィオラの山田大介は大森南朋が演じている。この3人は音楽についてはまったくの素人。チェロの漆原愛を演じている久木田薫は、幼い頃から実際にチェロを演奏し、現在も芸大に在学中だという。演奏シーンはどの俳優たちもそれなりに見えて、これなら『ギター弾きの恋』のショーン・ペンと互角に競えると思う。久木田薫のチェロ演奏はさすがに本職だけあって、他の3人とは違う見せ場も用意されるなど別格扱い。演奏が始まったとたんに音楽の中に入り込んでいくその姿は、ちょっと他の役者では生み出せない雰囲気を持っていると思う。『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』のエミリー・ワトソンだって、この雰囲気はなかった。

 物語自体に目新しさはなく、むしろオーソドックスすぎて退屈なぐらい。しかしこうしたオーソドックスさが物語の足腰を強くして、演奏シーンだけが突出したような印象を防いでいる。この映画の果実は演奏シーンであり、大きな果実を実らせるためにはそれを支えるだけの太い幹が必要なのです。監督が音楽家だということもあり、「とにかく演奏シーンにこだわる」というこの映画の取った手法は正解だったと思う。音楽の楽しさ、難しさ、そして感動が、映画からストレートに伝わってくる。

 テーマ曲は久石譲オリジナルの弦楽四重奏曲「カルテット」だが、映画のために録音された曲は大小合わせて440曲だったとか。その中には『となりのトトロ』『キッズ・リターン』『HANA-BI』など映画ファンにはお馴染みのメロディも含まれている。僕が映画の中で一番感動したのは、じつはどさ回りのツアーをする4人が熱海の花火大会で『となりのトトロ』を演奏するシーン。それまでまったく演奏を無視されていた4人が『トトロ』のイントロを奏で始めると、花火を見に来ていた子供たちが次々に舞台の上の4人を振り向く。僕もイントロで「あ『トトロ』だ!」と思ったから、このシーンでは登場する子供たちの気持ちと映画を観ている僕の気持ちがシンクロしてしまった。ずるいけど上手い。

2001年今秋公開予定 渋谷東急3他
配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント 
配給・宣伝協力:東急レクリエーション

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