悪名

2001/06/28 東映第2試写室
勝新主演の人気映画を的場浩司と東幹久主演でリメイク。
これはオリジナル版へのオマージュだ。by K. Hattori

 昭和36年に勝新太郎と田宮二郎のコンビで映画化された今東光原作の『悪名』を、的場浩司と東幹久主演で再映画化したもの。この映画は勝新太郎自身が北大路欣也と組んで『悪名縄張荒らし』としてリメイクしたこともあるが、主人公の朝吉を勝新太郎以外の俳優が演じたことはない。『悪名』シリーズは勝新太郎と田宮二郎のものであり、朝吉は勝新太郎個人の役なのだ。それを何で今更再映画化する必要があるのか? それがこの映画に対して、誰もが感じる疑問ではなかろうか。

 監督は和泉聖治。脚本は高田宏治。物語は主人公の朝吉が故郷を飛び出して大阪でモートルの貞に出会い、因島から薄幸の女郎・琴糸を救出しようとするまでを描く。細部は多少違うが、勝新&田宮コンビの『悪名』とほぼ同じ内容だ。勝新のオリジナル版が上映時間1時間34分なのに対し、今回のリメイク版は上映時間が2時間近い1時間58分もある。それに加えて物語を朝吉とお千代の駆け落ちから始めるなど、オリジナル版の序盤を少し端折る形でエピソードが構成されている。その分、大阪に出てからのエピソードがたっぷりと余裕を持って描かれるわけだ。オリジナル版の『悪名』は舞台が次々と移動し、人物が入れ替わり立ち替わりして少し忙しい印象があるのだが、このリメイク版は時間に余裕がある分そうした印象はなくなっている。これはなかなかいい。

 映画は露骨にオリジナル版を意識しまくっている。オープニングのタイトルの出し方、タイトルバックの映像処理、そして音楽。朝吉の女房お絹の役はオリジナル版だと中村玉緒なのだが、今回のリメイク版ではさとう珠緒で“タマオ”つながり。(キャラクターからすると、貞の女房お照を演じた遠藤久美子と配役を入れ替えた方がいいような気もするけれど……。)立ち回りの演出もボクシングのようにこぶしで殴り合う今風のものではなく、拳骨を握りしめて腕ごと相手にぶっつけるようなものになっている。セットや衣装などの美術も、かつての大映の美術と比べれば雲泥の差があるけれど、このクラスの映画にしてはずいぶんとがんばって作り込んでいる。

 東幹久の貞は田宮二郎をずいぶん参考にしているようにも見えて、なかなかスマートでよかった。田宮二郎が持っていたモダンで軽やかな雰囲気はないけれど、これはこれで東幹久風のモートルの貞になっていると思う。問題は朝吉役の的場浩司。今回は彼が持っている柔らかさや温かさのようなものが全面に出て、つっぱらかったヤクザ役より何十倍もいい。ただしこの役を的場浩司が演じても、河内の百姓一家に生まれた田舎者という感じがしない。山出しの素朴でぶっきらぼうな朝吉と、そんな彼を兄貴と慕うダンディな貞の凸凹コンビが『悪名』シリーズの魅力だったのだが、今回は主人公ふたりともがスマートな雰囲気。これは評価が割れそうだ。

 オリジナル版にあった、お絹が朝吉に念書を書かせるシーンが僕は好きなんだけど(中村玉緒がじつにかわいい!)、今回それがなかったのはちょっと残念。

2001年7月28日公開予定 新宿東映パラス3他 全国順次
配給:イップ・エンターテイメント

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