ドリヴン

2001/06/26 日本ヘラルド映画試写室
スタローン主演のレース映画。ドラマの情緒は皆無。
さっぱりした夏向きの娯楽映画。by K. Hattori

 シルベスター・スタローンの主演最新作は、レニー・ハーリン監督によるカーレース映画。スタローンとハーリン監督が組むのは『クリフハンガー』以来。今回スタローンは、自分で脚本も書いている。内容はどことなく『ロッキー5/最後のドラマ』を連想させるもの。一度引退したレーサーが、才能はあるが精神的な弱さを持つ若いレーサーを育成するため再びレースの世界に舞い戻る。ライバルレーサーとの友情は、まるで『ロッキー』シリーズのロッキーとアポロの友情を思わせる。ここに主人公と元恋人の関係や、若いレーサーの恋愛話やマネージャーをしている兄との確執などのドラマが絡んでくる。スタローンに感情移入して中年男のダンディズムに酔いしれるもよし、ライバルレーサーの感情移入して働き盛りの男がちらりと見せる哀愁の表情に熱を上げるもよし、若いレーサーが自立していく姿を青春映画のように楽しむもよし。映画を観る人によって、いろんな見方ができる映画なのだ。これぞスタローン映画の集大成。……たぶん脚本はそういう意図でしょう。

 主演のスタローンがベテランレーサーのジョー・タントを演じているが、それ以外のキャストもじつに豪華。若いレーサー、ジミー・ブライ役は『タイタンズを忘れない』で注目されたキップ・パルデュー。ライバルレーサーのボー・ブランデンバーグを演じているのは、『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』のティル・シュワイガー。ふたりのレーサーの間で揺れ動くソフィアを演じるのは、リメイク版『猿の惑星』が控えているエステラ・ウォーレン。チームの監督役には大ベテランのバート・レイノルズ。タントの元恋人役にはジーナ・ガーション。こうした粒ぞろいのキャストが一堂に会してぶつかり合えば、普通はさぞや濃厚な人間ドラマが展開すると思うはず。しかし映画はじつにあっさりしたものだ。

 監督が突き押し一辺倒のレニー・ハーリンだから、そもそも人間ドラマなどという気の利いた技能を見せられるはずがない。この映画の中の人間関係は、まるで紙切れのようにペラペラなのだ。しかしそれがこの映画の欠点になっているかというと、必ずしもそうではないと思う。男同士の友情や確執を粘っこく描いたスタローンの脚本を、そのまま映画化してもベタベタの浪花節世界になってしまうだけではないか。それは『ロッキー5』が証明していると思う。『クリフハンガー』の旧友同士の確執というのも、あそこだけが妙にベタついて映画全体の足を引っ張っていたかもしれない。そうした経験があるからこそ、レニー・ハーリンは確信犯的にスタローンの用意した人間ドラマを切って捨てる。一応エピソードは盛り込んであるものの、まったく力がありません。

 見どころはレースシーンであり、派手なカークラッシュです。事故車からレーサーを脱出させるシーンは手に汗握るサスペンス。こういうシーンになると、レニー・ハーリン監督の演出手腕がさえ渡る。後味爽やか。ベタベタした日本の夏にぴったりのドライな映画です。

(原題:DRIVEN)

2001年8月公開予定 全国松竹東急系
配給:松竹、日本ヘラルド映画 配給協力:アルゼ

ホームページ:http://www.driven-jp.com/



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