マチューの受難

2001/06/14 日仏学院エスパス・イマージュ
「マチュー」とは使徒マタイから取った主人公の名。テーマ曲はバッハ。
といっても別に宗教映画ではありません。by K. Hattori

 フランスのノルマンディー地方にある小さな町。父と兄弟ふたりが同じ工場に勤めるマチューの家族は、工場勤めという安定した身分のおかげで、裕福ではないながらも安定した生活を送ってきた。ところが兄の結婚式の日、真面目な工員だった父親が会社を懲戒解雇されてしまう。禁煙になった職場で、ついうっかり煙草を吸ったのが見つかったのだ。会社のために多大な貢献をしてきた父を会社は冷酷に追い出し、労働者を守るはずの組合も何もしてくれないし、職場でもみんながダンマリを決め込む。マチューにとってショックだったのは、同じ工場に勤める兄までもが「仕方がない」と言ったこと。事を荒立てることを好まない父親はすっかり落ち込み、ある日事故で命を落としてしまう。事故か自殺か、それはわからない。確かなのは、そのきっかけが工場にあるということ。マチューは工場への復讐を誓う。誰も味方になってくれないなら、自分ひとりでやるしかない。

 主人公マチューを演じているのは、『王は踊る』でルイ14世を演じ、フランス映画祭横浜には他にも『リザ』が出品されているブノワ・マジメル。『リザ』の彼は物語の狂言回しだったけれど、この映画では堂々の主役です。残念なことに、僕はこの映画をあまりデキのいい作品だとは思わなかった。父親を殺した工場に復讐するため、主人公のマチューが社長の妻を誘惑するのですが、誘惑したからどうしたという、彼の明確な目的が見えてこない。社長の妻を誘惑して殺したり傷つけたりするつもりだったのか? それとも社長の家に入り込んで、何らかの経済的な利益を得ようとしたのか? 自分の家庭がめちゃめちゃにされたのと同じように、社長の家庭を破壊しようとしたのか? たぶんそうした具体的な目的は、彼にはないのです。社長夫人を誘惑し、ベッドに引っ張り込んでセックスする。それでおしまい。

 この映画は主人公の復讐計画と挫折を描いているわけですが、主人公がそもそも思い描いた筋書きがあまり明確でないため、挫折の苦さもあまり伝わってこない。マチューはいつしか社長夫人を愛するようになってしまい、それが残酷な復讐を思い止まらせたというのだろうか? それともマチューが彼女を追いかけたのは、ただの未練なんだろうか。このあたりの気持ちの輪郭が、もっと明確になっているとよかったと思う。ただしこれは演技云々ではなくて、脚本や演出の援護がぜんぜんないのが問題なのです。マジメルは孤立無援の中で複雑な心理を演じようとしており、見ていて気の毒になるほどだった。でもこの孤立感が、主人公マチューに重なるわけだけど。

 社長夫人クレールを演じているのは、『パパラッチ』『エステサロン ヴィーナス・ビューティ』『ポアルノグラフィックな関係』のナタリー・バイ。今回の映画祭ではもう1本『バルニーと彼のちょっとした心配事』が上映され、来日するフランス代表団の団長も勤めている、現代フランスを代表する大女優です。この映画の彼女もじつにチャーミングでかわいらしい表情を見せます。

(原題:Selon Matthieu)

2001年6月23日17:30上映 パシフィコ横浜
(第9回フランス映画祭横浜2001)

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