ビヨンド・ザ・マット

2001/06/06 メディアボックス試写室
アメリカのプロレス界を取材したドキュメンタリー映画。
プロレスは八百長? それは誤解です。by K. Hattori

 プロレスはかつてテレビの人気番組として、国民的な人気を誇っていたスポーツだ。しかしそれを野蛮な暴力ショーと見る人もいれば、真剣勝負ではなく八百長だからスポーツではないと批判する人もいる。こうした批判が、「真剣勝負」や「史上最強」をうたう最近の総合格闘技ブームを生み出してきた面もあるだろう。だが勝つための手段として発達した「格闘技」と、観客にアピールしてなんぼのプロレスとは、どこかに一線を画する部分があるのだ。例えばグレイシー柔術がいくら世界最強を誇ろうと、彼らがプロレスの世界で花形になることは絶対にない。プロレスでは試合の勝ち負け以上の何かがレスラーたちに求められているのだ。その「何か」に観客は熱狂し、レスラーたちはその「何か」を身にまとうことでファンの喝采を浴びる。

 この映画はプロレス興業の舞台裏を、「え〜っ! そんなこと見せちゃっていいの?」という部分まで見せてしまう。取材対象となっているのは、今や世界最大のプロレス興行団体となっているWWFがメイン。そこでは試合前に、選手やプロモーターの間で試合の展開や放送用カメラ位置が細かく打ち合わせされる。プロレスは試合展開や最終的な勝負の行方も含め、ほとんどがこの事前の打ち合わせで決められているのだ。試合前後の選手がマイクの前で語る挑発的な発言も、事前にちゃんと台本ができていてリハーサルも行われる。舞台裏ではこれから戦うレスラー同士がにこやかに談笑しながら、試合でいつどう技を出すか、どこでどんな見せ場を作るか、そこで選手がどんなことを言うかまで、きちんと打ち合わせをしている。このシーンで誰もが思い出すのは、たぶん映画やドラマの殺陣だろう。

 だが勘違いしてはいけない。事前打ち合わせは殺陣をつけているようにも見えるが、プロレスは「芝居」ではない。芝居の殺陣は格闘シーンをそれらしく見せているだけで、本当に殴ったり蹴ったりはしない。でもプロレスの技は本当に相手に当たっている。殴り、蹴り、チョップを見舞い、関節を攻める。高いフェンスから相手を場外に投げ飛ばし、パイプ椅子でめった打ちにして血まみれにする。それは時に大けがを生み、選手の生命さえ奪ってしまいかねない危険を伴っているのだ。

 プロレスは段取りが決まっているし、勝敗の行方も最初から決められている。でもそれは「八百長=手抜き」という言葉が絶対に当てはまらないものなのだ。プロレスは肉体を使った総合エンターテインメントであり、レスラーたちは厳しいトレーニングを重ね、マットで命がけの技を披露し自らをアピールするパフォーマーだ。それは勝敗を競うスポーツ興業であると同時に、劇場での芝居の要素も持ち、サーカスのような面もある。まぁ異論のある人もあるでしょうけど……。

 何にせよ、いろいろ熱くなる映画です。テリー・ファンクの引退試合と、試合を観戦するマンカインドの家族の姿に、僕はたっぷり泣かされてしまいました。

(原題:BEYOND THE MAT)

2001年晩夏公開予定 シネマライズ
配給:クロックワークス

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