完全なる飼育
愛の40日

2001/05/29 TCC試写室
松田美智子の「女子高校生誘拐飼育事件」2度目の映画化。
前作よりは面白い。ただし安い映画になっている。by K. Hattori


 実在の事件をモデルに松田美智子が書いた小説「女子高校生誘拐飼育事件」を映画化したもの。同じ小説は3年前にも新藤兼人脚色・和田勉監督で『完全なる飼育』として映画化されているが、今回はその続編でもパート2でもなく、なんと同じ原作の再映画化なのだ。中年の男が女子高生を誘拐して自室に連れ帰り、そこに監禁して少しずつ関係を深めていくというストーリーは同じ。これは原作が同じなんだから当然だろう。しかし2つの映画のテイストはずいぶんと違う。前作は中年男を竹中直人が演じ、少女を小島聖が演じていた。今回は緋田康人が中年男を演じ、新人の深海理恵が少女を演じている。竹中直人もカウンセラー役でゲスト出演。脚本は島田元。監督は西山洋市。脚本監修として原作者・松田美智子の名前がクレジットされているのだが、具体的にどんなことをしているのかは不明。おそらくこれは「この映画の方が原作に近いですよ」というアピールなんだと思う。

 僕は前作『完全なる飼育』の最大の欠点は、ヒロインを演じていた小島聖が最初から熟れた女性としての色気を発散していて、男との生活の中で少女から女へと変化してゆく描写力が乏しいことだと考えている。その点に関して、今回の映画はだいぶ改善されている。深海理恵の演技はどうしようもなく下手くそだし、ヌードシーンや濡れ場にぎこちなさも感じる。しかしこれは、ある日突然誘拐された少女が必然的に持つ「緊張感」や「おびえ」にも重なり合い、必ずしもこの映画の欠点にはなっていないと思う。前作が中年男と少女が暮らすボロアパートの人間模様をコミカルに描写し、その中で主人公たちの交情の変化を描き出そうとしていたのに対し、今回の映画は男のアパートの周辺にほとんど人間の気配がしない。壁越しに隣室の物音は聞こえてくるし、ドアの向こうに新聞屋の男が立ったりする。でも聞こえるのは音や声だけで、その姿はまったく現れない。こうしたエピソードによって、男の部屋が持つ密室性や閉鎖性、社会と触れ合っているようでまったく切り離されている小さな世界というイメージが強調されている。

 中年男を演じた緋田康人は過去にも何本かの映画で顔を見ているが、今回は主役ということもあって今まで僕が観てきた彼の映画出演作の中では最高の芝居を見せてくれる。ひとりの男の中にある、狂気、残酷さ、優しさ、脆さなどが、場面ごとに的確に表現されていると思う。エキセントリックで変態チックな方向に走りがちな役者だが、こうした常温の芝居もうまいものなのだ。これで彼の芝居を受け止める深海理恵の側に、もう少し細かなリアクションが取れるとよかったのだが、今回は残念ながらそれが期待できなかった。今後に期待したい。

 それにしても、なぜ再映画化なのか。無垢な少女を誘拐して監禁するというのは、そんなに心ときめかせるファンタジーだろうか。なんだか面倒くさそうで、僕ならごめんだけどなぁ。でもこの面倒くささこそが、監禁を夢見る人にとっては最高の喜びなんでしょうね。

2001年6月23日〜7月6日公開予定 中野武蔵野ホール
7月7日〜7月20日公開予定 シネマカリテ(レイト)

配給:キネマ旬報社
ホームページ:http://www.emovie.ne.jp/
http://www.netlaputa.ne.jp/~kinejun/



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