2001/05/22 シネカノン試写室
『タイムレス メロディ』の奥原浩志監督最新作。
この中途半端なぬるま湯状態が僕は好き。by K. Hattori


 一昨年の『タイムレス メロディ』でデビューし、プサン国際映画祭でいきなりグランプリを獲得した奥原浩志監督の新作映画。西伊豆(田子)を舞台に、若い男女4人の微妙な心の交流とすれ違いを描いている。前作『タイムレス メロディ』同様、この映画も「友だち以上、恋人未満」のふわふわした人間関係を描いているように見える。何度か身体の関係はあっても、気持ちの上では「恋人と言ってしまうのもなぁ」「つき合っていると言えるのかなぁ」というような関係。これは別にだらしないわけではなくて、今はどんな男女関係も多かれ少なかれこういう部分を持っていると思う。

 西伊豆が舞台になっているが、登場人物4人は全員が町の外から来た異邦人のような存在だ。ホテルで働くケンサクにしたところで、3年前にこの町にやってきた新参者。ミカは毎年夏に町に来る旅行者で、ケンサクとは去年ちょっと関係があったらしい。ユカは恋人とホテルの予約をしていたが、彼と別れてひとりでホテル泊まり。途中から映画に登場するタツは、金銭上のトラブルから東京を逃げ出し、昔なじみのケンサクを頼って西伊豆にやってくる。ケンサクとタツは同じ施設の出身者らしく、出自も生い立ちも不明。ミカは西伊豆に限らず世界中を旅して回る気ままな放浪者。ユカもどこからやってきたのかは不明なままだ。正体不明な若者たちが4人、たまたま同じ夏の一時期に同じ場所に集まって、友情とも恋愛とも言えないどっちつかずな関係性を持つ。

 この中途半端で煮え切らない関係を描いた映画を、何も事件らしい事件が起きないつまらない映画と受け止めるか、ぬるま湯に浸かっているような穏やかで居心地のよい時間と感じるかは、観た人の好みや判断の分かれるところだと思う。僕は前作『タイムレス メロディ』同様、この映画がすぐに大好きになった。『タイムレス メロディ』は全体を三部構成にして時制を入れ替えるなど、やや技巧に走りがちなところがあったけれど、この映画は物語の頭から最後まで時系列に進行していて、語り口はずいぶんとストレートなものになっている。もちろん4人それぞれの過去など、観客の目から伏せられている部分も多いのだが、それによって映画自体がわかりにくくなっている点はない。『タイムレス メロディ』の語り口に少し戸惑った僕も、今回はばっちりでした。

 人間同士のあやふやな関係性を、あえてあやふやなままにしておこうという作り手の意図は、この映画の場合かなりストレートに宣言されている。その最たるものが、ケンサクと彼が看護する老人の関係だ。ケンサクはこの男を「父親かもしれない」と言うのだが、何らかの方法でそれを調べようとするつもりはない。曖昧模糊とした関係性の中で、曖昧なまま関係を続けていくことで、ケンサクは自分の居場所を確保している。ユカがケンサクに戸籍を突きつけたのは、そんなケンサクの気持ちを知った上で、自分とケンサクの関係をはっき りさせたいという意思の表れだったのだろう。

2001年7月31日公開予定 新宿シアタートップス
配給:IndEx Office、リトル・モア 宣伝:ミラクルヴォイス
ホームページ:http://www.littlemore.co.jp/cine/nami/namitop.html


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