こどもの時間

2001/05/09 映画美学校試写室
自然に囲まれた保育園でのびのびと育つ子供たちのたくましさ。
元気な子供たちを見るとこちらまで元気になる。by K. Hattori


 埼玉県桶川市の「いなほ保育園」を取材した、上映時間80分のドキュメンタリー映画。保育園の卒園式から始まって、春夏秋冬の1年間を園児たちがどう過ごしているかを丁寧に見つめている。園長や保母さん(保父さん)たち、園児の父母なども登場することはするが、主役は何と言っても子供たち。0歳から6歳までの子供たちが、走って、飛んで、泳いで、転んで、食事して、泣いて、笑って、鼻水たらして、ケンカして……と、ありとあらゆる表情を見せるのだ。子供は全身で感情を表す。喜んでいるときは全身で喜ぶ。怒っているときは全身で怒る。じつにわかりやすい。スクリーンを通して、ストレートの剛速球で子供たちの感情が伝わってくる。

 映画を観る前は「教育問題か何かがテーマの映画かな」と思っていたのですが、この映画はそんな小難しいことは一言も言わない。子供って元気だなぁ。子供って楽しそうだなぁ。そんな子供を見ていると、こっちまで元気で楽しい気分になって来ちゃうなぁ……。ただそれだけの話です。この映画に近いのは、テレビの野生動物ドキュメンタリー番組かもしれません。人間も子供時代は、半分ぐらいが野生動物みたいなものです。人間は社会的な動物だから、社会の規範に合わせて自分の感情や行動をコントロールする。自分の思っていることややりたいことを、社会の常識に合わせて抑制する。それが社会常識を身につけた大人になるということです。でもこの映画に登場する子供たちは、そんなことお構いなしにのびのびと自分たちの「生」を楽しんでいる。それをこの映画は『こどもの時間』と表現しているのです。

 登場する子供たちの、何と見事に汚らしいこと! 鼻水は垂れてるし、服や身体はどろんこだし、年中素手素足で遊び回っているから肌もかさかさ。着ている服も何度も何度も洗濯して、白っぽく固くなっている。小さい子供たちは食べ物だって手づかみで食べちゃう。見ていると「おいおい手は洗ったのか!」とか「鼻水も一緒に口に入ってるぞ!」とか、すごく心配になる。でも子供たちはそんなことお構いなし。なんともたくましい。最近の都会の子供は、みんな子役タレントみたいに清潔できれいになっているから、この映画に登場する腕白な子供たちの姿には一種のカルチャーショックを受けてしまう。そういえば「腕白」なんて言葉、ここ何年も思い出すことすらなかった。腕白な子供が社会から消えてしまったから、この言葉が自然に死語のようになっていたのです。でもこの映画には、昔ながらの“腕白な子供”が大勢登場する。すごいぞ。がんばれ。そう声をかけたくなる。

 見ていてヒヤヒヤする場面もたくさんある。食べ物の争いで、隣の子の腕をフォークで刺しちゃう子もいる。ケンカの遺恨から、友だちをいきなり階段から蹴落とす子もいる。でも大丈夫。この程度の痛い目を子供の頃にたくさん経験している子供は、駅のホームでサラリーマンを蹴り殺すようなバカには育たないと思うのです。根拠は特にないけど、何となくそう思うんだよね。

2001年夏休み公開予定 BOX東中野
問い合わせ:マザーランド『こどもの時間』映画上映委員会
ホームページ:http://www.motherland.co.jp/


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