みんなのいえ

2001/04/25 東宝第1試写室
家造りはそれに関わる人たちの人生が映し出される合わせ鏡。
三谷幸喜監督の新作は文字通りの“ホーム”ドラマ。by K. Hattori


 人気脚本家であり劇作家でもある三谷幸喜が、『ラヂオの時間』以来4年ぶりに撮った映画監督第2作。もちろん今回も脚本を監督本人が書いている。しかも前回と違って、今回は映画オリジナルの脚本。三谷監督は前作もそれなりにヒットしたのだから、本当ならもっと早く映画監督としての2作目が作れてもおかしくないの。でもそこは売れっ子の脚本家や劇作家だから、監督第2作目がこの時期になってしまったということなのだろう。

 ある夫婦が家を建てる。土地を買って新居を設計し、建設が進んで最後に完成する。ただそれだけの話です。しかしそこには、人生の中のさまざまなドラマがある。野球ファンが野球の試合を人生になぞらえるように、麻雀好きが雀卓の上にそれぞれの人生模様をかいま見るように、家を建てる人間はそこに人生の縮図を見る。家には建てる人の個性が表れる。家はまるで鏡のように、それに関わる人々の本性を暴き出す。人間たちの喜怒哀楽が、悲喜こもごもが、家造りの中に浮かんでは消える。

 物語の中心人物は4人。家を建てようとする、放送作家の飯島直介と飯島民子の夫婦。家の設計を依頼されたデザイナーの柳沢秀寿は民子の友人。家の施工を担当する大工・岩田長一郎は民子の父。飯島夫妻にとって、家造りは一生に一度の大事業。普段はインテリアデザインの仕事をしている柳沢にとって、トータルな住環境をデザインできる家造りは夢にまで見たチャンス。大工の長一郎にとって本格的な家造りは久しぶりだし、それが愛娘からの頼みとあっては張り切らないわけにいかない。それぞれがこの家造りに、並々ならぬ意欲を燃やす。そしてその意欲がぶつかり合う。もつれ合う。互いに思惑が違うから、やがてにっちもさっちも行かなくなる。最大の激戦地は、新進気鋭のデザイナーの柳沢と、昔気質の大工棟梁である長一郎が互いの言い分を譲らず、はなから相手をバカにして一歩も譲らないこと。両者の間でどちらにもいい顔をしたい直介は、調整役としてはあまりにも力不足で事態はまったく好転しない。事態はますます混乱していく。しかしこの混乱の中で、直介はなぜか表情が生き生きしてくるのだが……。

 面白い映画だ。ギャグのテンポなども、前作『ラヂオの時間』よりずっとこなれたものになっていると思う。会話シーンや宴会のシーンで見せる長回しも効果的で、人物の出入りなどはなかなかスリリング。ただし笑いが「ニヤニヤ」「クスクス」止まりで、「ガハハ」という爆笑になかなかつながらないのは残念。登場人物たちの気持ちが、素直に飲み込めないところも何ヶ所かある。柳沢はなぜペンキをぶちまけたのか? 柳沢と長一郎が仲良くなることに、なぜ直介が焼き餅を焼かなければならないのか。柳沢と長一郎の対立と対決と和解というプロセスの中で、主人公夫婦が蚊帳の外に立たされてドラマの骨が弱くなってはいないか。エピソードごとの芝居作りは悪くないと思うのだが、全体として見るとドラマの輪郭が少しぼやけているようにも思える。

2001年6月9日公開予定 日劇東宝他・全国東宝系
配給:東宝
ホームページ:http://www.minnanoie.net/


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