RUSH!

2001/04/24 シネカノン試写室
『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』の日本版。
誘拐と殺人と消えた5千万円の行方。by K. Hattori


 かつてのピンク映画四天王・瀬々敬久監督の最新作は、和製『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』とでも言うべきスピーディな犯罪コメディ。焼肉屋の店員が、社長の娘を狂言誘拐して手に入れようとした5千万円。しかし社長は別の後ろ暗い仕事もしており、その報酬として別件で5千万円を用意していた。娘が誘拐されたという一報が入った直後、社長はもののはずみで射殺され、5千万円を欲しがる悪党が2組に対して5千万円入りのバッグが1つだけ残される。恫喝、牽制、裏切りなどが交錯する中、この金はどこに向かうのか?

 誘拐事件と身代金という犯罪映画の定番プロットに、妻に逃げられたダメ男と彼の妻を寝取った若いホスト、さらに「リングネームはミルマスカラスだった」と主張する元プロレスラーの話が割り込んでくる。物語の主役だったはずの狂言誘拐グループは早々に舞台から退場し、5千万円を追う悪徳刑事と、寝取られ男とホストとレスラーの3人組の話が中心になる。映画の中の時間はバラバラに解体され、観客が「あれれ?」と思っている内に、それまで知っていたストーリーを別の視点からなぞったりする。このあたりの感覚は、タランティーノの『パルプ・フィクション』に近い。物語を順々に経路立てて説明していく従来の映画話法を思い切って捨ててしまうあたりは、いかにも今の感覚。間に章立てのタイトルを入れるなどもっと親切な方法もあるだろうに、あえてそれをせずいきなり唐突に映画の視点を切り替えるのも、結果としてはものすごく効果的。映画を観ているときは「これって巻を間違えたんじゃないの?」と思わせるぐらい出し抜けに物語が切り替わるのですが、この出し抜けな感じが後半になって生きてくる。「あれはどうして次の場面につながるのだ?」と観客の誰もが心の中に持つであろう疑問が、ある瞬間にパラリとほどけて解消する快感。これを映画を観ていない人に説明するのは、ちょっと困難です。それほど映画的な快楽にひたれる。

 登場する役者たちが曲者ぞろい。日本語がまったくダメな焼肉屋の娘を演じているのは、『シュリ』でヒロインを演じていたキム・ユンジン。その相手役となるのがお馴染みの哀川翔。翔が出れば竹内力もゲスト出演する。大杉漣と阿部寛が悪徳警官を演じれば、柳葉敏郎が寝取られ亭主を演じ、千原浩史が金髪ホスト、麻生久美子がうらぶれたバーの美人店員、「1本いっとく?」のハニホー・ヘニハーがミルマスカラスとは驚いた。主要場面で日本語と朝鮮語が入り混じり、朝鮮語の場面では画面に字幕が出る。この感覚は三池崇史とも共通するが、今の日本をリアルに描こうと思えば、否応なしに多国籍言語になってしまわざるを得ない面もあるのだろう。どこもかしこもボーダーレスなのです。

 複数の物語が別々に同時進行し、最後にすべてが連結するという映画はたくさんある。しかしこの映画は「最後はこうなるだろうな」という観客の期待に応えつつ、それを逆手に取る裏技仕様。このずるさにニヤリです。

2001年6月中旬公開予定 渋谷シネ・アミューズ
配給・宣伝:スローラーナー
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