シネマGOラウンド

2001/04/18 映画美学校試写室
映画美学校の講師と学生たちが共同で作った短編4本。
『寝耳に水』と『桶屋』が面白かった。by K. Hattori


 いつも試写でお世話になっている映画美学校の講師と生徒たちが作った、1話30分前後の短編映画4本による特集上映。撮影と編集はフィルムで行い、最終的にはビデオで仕上げてプロジェクター上映される。以下、各作品の内容と簡単な感想を書いておく。

 万田邦敏監督の『夜の足跡』は、小さな印刷所に勤める若い男と、田舎から母親に追い出されるようにして彼のもとにやってきた11歳の弟の物語。このふたりは血を分けた実の兄弟なのに、やけによそよそしい。その理由は何なのか? じつは主人公は過去に、実の父親を殴り殺したという過去を持っている。弟は当時まだ物心の付いていない子供なので、なぜ兄が父を殺したのかその事情は知らない。「父を殺した兄」からその事情を聞きたいとも思わない。弟は兄を憎む。母が自分を捨てたのも、兄の父殺しが原因だと思っている。こんな兄弟がいかに“和解”するのかを描いた作品だが、兄と弟の和解が、兄と父親の和解との二重像として描かれている。正攻法の演出で、好感の持てる作品。

 『寝耳に水』は井川耕一郎の監督・脚本による、一種のホラー映画。3年前に自殺した男と、最後に交わした会話の思い出。そこから物語は「幽霊(ファントム)」というキーワードと、SM雑誌の投稿記事と、「ファーブル昆虫記」を材料に、摩訶不思議な心の世界の万華鏡を遍歴し始める。今回観た4本の作品の中では、一番完成度も高く面白いと思った作品。しかし同時に、この映画ほど不快になった作品はない。今目の前にある温もりは、ストーブの残り火なのか、それとも薪に火を付けるための火口なのか。今自分は本当に生きているのか、それとも肉体が失われた後に残る「ファントム」なのか。幽霊の口から眠る男の耳に注ぎ込まれる水。幻想のビルのベランダから、ひらひらと舞い落ちる布団。印象的な場面が多い。でもなんでこんなに不快なんだろう。心臓の表面を直接爪で引っかかれるような不快感だ。

 「風が吹くと桶屋が儲かる」という日本のことわざを、そのまま最初から最後まで映画化するという馬鹿げたアイデアに挑んだのは、西山洋市監督・脚本による『桶屋』という作品。風が吹くと埃が舞って目の見えなくなる人が増える。目の見えない人は三味線を習う。三味線には猫の皮が必要なので、町の中から猫が消える。猫がいなくなるとネズミが増える。ネズミは桶をかじる。……という連鎖をそのまま絵解きするのではなく、それぞれの場面がショートコントのようになっている。ギャグはベタのものが多いのだが、ナンセンスで結構面白い。ただもうちょっと、絵が明るいとよかったかな。話が途中からことわざの説明を逸脱し、最後は本物の桶職人が登場して「ところで儲かりますか?」「儲かりません」という会話で終わってしまう変な映画。

 植岡喜晴監督が主演の遠山智子と一緒に脚本を書いている『月へ行く』は、女子高生がUFOから出たピンク色の光線で妊娠するという変な映画。これは理解不能。

2001年6月22日〜7月7日 アテネ・フランセ文化センター
問い合わせ:映画美学校
ホームページ:http://www.athenee.net/SCHOOL/filmschool.html


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