海賊八幡船

2001/04/18 東映第2試写室
昭和35年に製作されたスケールの大きな海洋冒険時代劇。
こんな映画はもう二度と作れないだろう。by K. Hattori


 昭和35年製作の東映時代劇。主演は大川橋蔵。監督は沢島忠。八幡船というのは海賊船の異名。日本から中国沿海を荒らし回った倭寇のことだ。映画の中ではこの八幡船を瀬戸内を根城にする海の豪族村上水軍と結びつけ、さらに八幡船の本来の目的は海上交易で、海賊行為をしているのは偽の八幡船だという設定になっている。八幡船は船団を組んで瀬戸内の本拠地を出発すると、九州沖から、沖縄、台湾、フィリピン、インドネシア、タイにまで足を伸ばして南蛮貿易に従事する。同じルートで沿海を荒らし回るのが倭寇だが、八幡船はこれらの海賊行為を取り締まる海上警察の役目も持っている。

 時代は戦国時代末期。堺の豪商の息子として育てられた主人公は、町にやってきた瀬戸内村上氏配下の水夫たちから、自分が八幡船を率いる頭領の息子だったことを知らされる。自分たちの頭領になってくれと言う水夫たちの言葉に、「なぜ俺が海賊の首領にならなければならないのだ!」と言い放つ主人公。だがやがて彼は八幡船の本来の役割と使命を知り、八幡船頭領として生きる道を選ぶことになる。彼のために作られたという盲船(めくらぶね=黒塗りの軍船)に乗り込み、実の父親を殺害した仇であり、妹を誘拐して奴隷にしようとしている倭寇の船を追って大海原を突き進む主人公たちの勇姿!

 巨大なオープンセットや実物大の船が何艘も登場するスケールの大きな作品。映画冒頭に出てくる堺の町のセットだけで度肝を抜かれる。見えるところしか作っていない張りぼてにせよ、海に面して作られた船着き場や白い蔵が、横長シネスコ画面の左右一杯にぎっしりと並んでいるのは壮観だ。しかもこのセットを埋め尽くす、大勢のエキストラ。主人公が初めて村上水軍の村を訪ねるシーンも、海岸線に建てられた無数の小屋と、海岸をびっしりと埋め尽くす群衆の数に驚かされる。こんな映画は、たぶんもう二度と作れないだろう。ハリウッド映画だって同じようなシーンを作るために、今ならデジタル合成やCGを利用するに違いない。大勢の人を乗せた八幡船が大海原を進むシーンも、ほとんどが実物大の船のセットを使って撮影されているようだ。複数の船が入り乱れて大砲を撃ち合うシーンなどは模型を使った特撮になるが、船体をぶつけ合い、敵味方入り乱れての戦闘シーンになると、実際に水に浮かぶオープンセットを使って撮影しているようだ。主人公たちが材木を取りに南方の島の奥地へと向かうシーンや、水浴びをする泉の場面などは室内セット。これも見渡す限りのジャングルになっていて、短いシーンでもよく作り込まれている。

 ただし物語自体はちょっと物足りない。上映時間1時間45分だと、主人公の成長過程が一直線になってしまって起伏に欠けるのかも知れない。何しろこの主人公、最初から最後まで一度も挫折しないのです。やることなすことトントン拍子に進んでしまう。上映時間を20分ほど延ばせれば、エピソードの膨らませ方にも余裕がでてきたと思うのだけれど……。ちょっと残念。

2001年5月12日より 三百人劇場
「東映黄金時代劇・沢島忠の世界」
問い合わせ:アルゴピクチャーズ、三百人劇場
ホームページ:http://www.bekkoame.ne.jp/~darts


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