ガンシャイ

2001/04/18 メディアボックス試写室
神経性の下痢に悩む潜入捜査官が主人公のコメディ映画。
主演のリーアム・ニーソンがいい雰囲気。by K. Hattori


 麻薬取締局の潜入捜査官として、18年間も第一線で捜査にあたってきたチャーリー。大ベテランの彼は経験に裏打ちされた冷静沈着な行動で常に実績を上げているし、上司や同僚など周囲からの信頼も厚い。だが彼は今、重大な精神的危機を迎えていた。前回捜査していた際、最後に正体を見破られて処刑されそうになったのが、彼の心から自信というものを木っ端微塵に打ち砕いてしまった。危険と隣り合わせのピリピリした緊張感を、心地よいと思っていた時期もあった。だが彼が今望むのは、一刻も早く引退すること。もう十分に苦労したし、捜査に貢献もしてきたではないか。一度怖じ気づくと、もう後には戻れない。百戦錬磨の凄腕捜査官チャーリーは死んでしまった。今のチャーリーはギャングたちの中でぶるぶる震え上がり、いつも神経性の下痢に悩まされている哀れな中年男でしかない。そんな彼が、コロンビアマフィアとイタリアマフィアのからんだ麻薬資金洗浄の現場に、たったひとりで送り込まれてしまう……。

 主人公チャーリーを演じているのはリーアム・ニーソン。彼は『シンドラーのリスト』でも『マイケル・コリンズ』でも、信念に燃える不屈の男を演じてきた。こうしたキャリアに懐かしの『ダークマン』や『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』『レ・ミゼラブル』を加えても話は同じだ。長身でやせ形筋肉質の体つきと太い首の上に、頬骨のとがった顔と大きな顎、それに心の底を見通させないような小さな目がある。その彼が、すっかり度胸を失った潜入捜査官を演じている面白さ。マフィアとの打ち合わせでは自分の身を守るためにも絶対にボロは出せないが、そこを一歩離れると下痢に悩まされて真っ青な顔をしている男。タイトルの『ガンシャイ(gun-shy)』というのは、猟犬や馬が銃声に驚いてすくみ上がること。臆病な潜入捜査官を主人公にしたコメディ映画のタイトルとしては、ちょっとしゃれたものだと思う。ただしこの意味は、カタカナにしてもまったく伝わってこないけど……。

 主人公はこの精神の危機から逃れるために、精神科でグループセラピーを受けたり、病院で結腸洗浄を受けたりする。ここで登場するのが、この映画のプロデューサーでもあるサンドラ・ブロック。登場場面はそれほど多くないけれど、この女優はこの程度の役回りの方がかえって光って見える。主人公は表向きは「有能な捜査官」を演じ続けなければならないのだが、グループセラピーの場やサンドラ・ブロック演じる看護婦の前では、そのまま「弱い自分」をさらけ出せる。これが結果としては、彼を助けることになるわけだ。女性との最初の出会いが、ストレスで下痢して浣腸しているところなんだから、どう考えたってこれ以下の醜態は見せようがない。結局人間は、「最低の自分」を受け入れてくれる相手に安らぎを感じるのかもしれないなぁ。

 コメディ映画としての切れ味は決してよくないのだが、このモタモタした感じもむしろ好感が持てるものでした。

(原題:GUN SHY)

2001年5月中旬公開予定 渋谷東急3他・全国ロードショー
配給:エムスリイエンタテインメント、メディアボックス 宣伝:メディアボックス
ホームページ:http://www.m3e.co.jp/


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