ベーゼ・モア

2001/04/13 サンプルビデオ
セックスと人殺しに明け暮れる女ふたりのロードムービー。
賛否両論ありそうだけど、僕は肯定派。by K. Hattori


 内容があまりにも過激だとして、フランスで上映禁止騒動が起きたという話題作。フランスというのはもともと映画の表現には寛大な国なので、そこで上映禁止とは何事かと思うけれど、まぁ確かにこの内容に不快感を持つ人もいることでしょう。原作・脚本・監督はこの映画が監督デビュー作となるヴィルジニー・デパント。友人のコラリー・トラン・ティが共同監督&脚本としてクレジットされています。トラン・ティ監督は、元ポルノ女優だったとか。見ず知らずの女同士が偶然出会い、セックスと暴力に満ちた旅をするというこの映画を、女ふたりが作っているというのは、何となく映画の内容そのものとシンクロしているようで面白い。

 二十歳そこそこの女性ふたりが、住んでいた町で人を殺して逃走する途中で偶然出会い、行く先々で強盗や人殺しを繰り返し、その合間にセックスしまくるという映画です。これはたぶん、男性からも女性からも嫌われる要素を持った映画だと思う。女性を弱い者、守らなければならない者、性的に従順な者だと考えたい男性は、この映画のヒロインたちを見てギョッとすると思う。一方で女性の自立や女性ならではの感性を主張するフェミニストたちは、この映画の暴力描写に反発すると思う。この映画のヒロインたちは暴力で男性たちを屈服させる。しかし銃を振り回して暴れ回るなんて、まるで安っぽい男根主義者そのものの行動ではないか。しかし僕は、この映画の主人公たちに結構共感してしまった。こういう気分というのは、たぶんアリだろうなと思った。

 最初はフランス版『テルマ&ルイーズ』みたいな映画になるのかと思っていたのですが、この映画はそんな立派なご託も理屈もない映画です。主人公たちはなぜ人を殺すのか。相手にムカツクからです。バカでアホな男や女は世の中にたくさんにて、それを片っ端から殺して回ることが、彼女たちにとって快感なのです。これは社会正義とはまったく関係ないし、権力や権威への反逆でもない。主人公のナディーヌもマニュも社会のクズみたいな存在で、そのクズが自分の回りにいるクズを殺しているだけ。『タクシー・ドライバー』のロバート・デ・ニーロは社会のクズを殺してヒーローになったけれど、この映画の主人公たちはそうならない。主人公ふたりはクズを殺し回ることで、自分たちが「クズではない」ことを自分自身に証明しようとしているようにも見える。でも「クズではない」ことで、彼女たちがどんな位置に立つのかは結局見えない。社会的な地位が上がるわけでもなく、金持ちになるわけでもなく、より狭苦しいところに自分自身を追い込んでいってしまうだけ。

 職もなく、教育もなく、将来への展望もない貧しい若者たちの姿は、最近のフランス映画によく出てくる。たいていそれは男なんだけど、職にあぶれてブラブラしているのは何も男ばかりじゃない。この映画はそんな「行き場のない若い女」が、人生の中でわずかばかりの輝いた時間を手に入れようとする悲劇かもしれません。

(原題:BAISE-MOI)

2001年4月14日公開予定 シネマライズ
配給:コムストック
ホームページ:http://www.baise-moi-jp.com/


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