ドリフト

2001/04/09 SPE試写室
香港とハリウッドを行ったり来たりのツイ・ハーク監督最新作。
九龍城での空中戦アクションはすごいぞ。by K. Hattori


 かつて香港アクション映画の世界に一大旋風を巻き起こし、意気揚々とハリウッドに乗り出したものの、その後があまり順調じゃないツイ・ハーク監督の最新作。かつて一緒に映画を作っていたこともあるジョン・ウーにすっかり水をあけられ、かといって意気消沈して香港に戻ってくるわけにも行かず、どうするのかと思っていたらこんな映画を作ってしまった。これは面白い。ツイ・ハークの映画はショボイ時とスゴイ時の差が激しいのだが、この映画はスゴイ部類に入ると思う。

 ただしこれはアクションに限っての話。お話の方はもう少し整理した方がよかったのではと思うのだが、たぶんツイ・ハークはそんなこと百も承知でこの映画を作っているに違いない。話が弱いのは、売れっ子の若手俳優ニコラス・ツェーが扮する警備会社の社員タイラーと、ウー・バイ演じる凄腕の殺し屋ジャックの友情と対決という一番肝心な部分に説得力がないからだと思う。組織から逃れて逃亡中の殺し屋が、なぜ資産家令嬢のジョーと愛し合うようになったのかもよくわからない。タイラーと警備会社の社長アンクル・ジーの関係も、もう少し描き込んでくれた方がよかったと思う。こうした説明が中途半端さが単なる「説明不足」ではなく、観客の目から一種のミステリーのように映ってしまうところが問題。「あの話はどうなったのだろう?」という疑問が物語に観客を引き付ける力になる場合もあるけれど、この映画ではその謎の何の回答も用意されていないから、観客は心理的に宙づり状態のまま放置されてしまう。

 監督としてはこうした物語の弱さを、アクションの壮絶さで十分に補えると踏んだのだろう。そしてその目論見はおおむね成功していると思う。映画の前半はアクションとドラマがうまく噛み合っていないような印象が強いが、ジャックが組織のボスを射殺して逃走するあたりからはドラマの流れとアクションの流れがピタリと一致してくる。アクションシーンの白眉は、九龍城の古ぼけたアパートで繰り広げられる壮絶な銃撃戦。迷路のように入り組んだ薄暗い廊下を走り回り、凹凸の多い古いビルの壁面をクモのように伝い、一人対複数の銃撃戦が繰り広げられる。ツイ・ハークは上下の空間や距離を十分に使った空中戦をしばしば映画の中で描くが、この映画ではそれにガンアクションを加えている。『マトリックス』は空中戦&ガンアクションをデジタル合成で実現したが、この『ドリフト』を観てしまうと『マトリックス』の空中戦なんて子供だましに思えてしまうはず。ロープ1本でビルの壁面上から下までを猛スピードで移動しながら、銃弾がうなりを上げて飛び交う大迫力! このあたりはもう、口アングリで「ホ〜」「ヘ〜」と声にならない声を上げるしかないのだ。

 白昼の九龍城で昔ながらも古い香港を見せた後は、夜の九龍駅の構内、コンサートが行われている体育館、地下鉄などに場所を移して、新しい香港の風景とアクションの組み合わせを見せるという構成の妙味。う〜む。

(原題:順流逆流 TIME AND TIDE)

2001年6月公開予定 有楽町スバル座 以降順次全国公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 配給協力:メディアボックス
ホームページ:http://www.spe.co.jp


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