喜劇・とんかつ一代

2001/03/27 東宝第1試写室
昭和38年の川島雄三作品。森繁他豪華キャスト。
個性豊かなキャラクター総動員の喜劇映画。by K. Hattori


 昭和38年製作の東京映画・東宝配給作品。三百人劇場で4月から始まる特集の目玉作品として、ニュープリントで上映されることが決まっている川島雄三の代表作のひとつ。オープニングのテーマ曲を、主演の森繁久弥本人が歌っているというノリの良さ。上野動物園のすぐ隣にある老舗の洋食屋・青龍軒の総料理長(加東大介)と、上野のとんかつ屋・とんQの大将(森繁)は、かつて同じ厨房で師弟として働いた間柄。だが森繁が加東大介の妹(淡島千景)と手に手を取って青龍軒を飛び出しとんかつ屋を始めた十数年前から、ふたりの間柄は険悪なものになっている。自分の後継とも思っていた森繁に逃げられた加藤大助は、森繁が自分の妹と開いたとんかつ屋を「道楽」だと言い捨てる。後継者にしようと厳しく料理修行させていた一人息子(フランキー堺)が、家を飛び出してしばしばとんQに出入りしているのも気にくわない。その後、青龍軒の買収騒ぎだの何だのがいろいろと事件があって、最後はミュージカル映画みたいにみんなで歌ってハッピーエンド。楽しい映画です。

 出演者の顔ぶれが豪華で、しかもキャラクターがどれも個性的すぎるぐらい個性的。女道楽がやまずあちこちの芸者に愛想を振りまく森繁。食い道楽で精力絶倫のフランキー堺。頑固一徹の加東大介。怪しいクロレラ研究者の三木のり平。その妻でクロレラ料理の研究家になりつつある池内淳子。加東大介の後妻役が木暮実千代。ウソ発見器で男の真意を探ろうとするしたたかな芸者に水谷良重。フランキー堺の恋人を演じているのは団令子。その父親で普段は異常なまでの清潔マニア、怒ると豚と人間の区別が付かなくなる屠殺職人(今じゃ絶対に映画やテレビに登場しない職業。この映画もテレビ放送できないと思う)が山茶花究。岡田真澄や益田喜頓も面白い。

 洋食ととんかつの対立が物語のモチーフになっているし、大衆食であるとんかつについて森繁があれこれウンチクをたれるシーンもある。この映画を今作るとすれば、食べ物関係の情報をもっと多くした方が面白いでしょう。やっていることは『美味しんぼ』とあまり変わらない。でもこの映画はあくまでも人間喜劇であって、B級グルメ映画ではない。奇妙奇天烈な人間関係のドラマが第一で、物語の背景になっている場所は二の次です。それは同じ東宝の社長シリーズや駅前シリーズと変わらない。この映画も“職人シリーズ”というシリーズ化が計画されていたそうですが、監督の川島雄三が亡くなってしまったのでこの1本きりになってしまったといいます。

 ロース肉のかたまりを切り分けて熱々のとんかつを揚げるシズル感あふれる映像に、「とんかつが食べられなければ死んでしまいたい」というユーモラスな歌詞の主題歌がかぶさるオープニング。この映画を観れば、誰だってとんかつが食べたくなるはず。加東大介が箸を付けなかったとんかつを、森繁が投げ捨てるシーンは「ああ、もったいない」と思ってしまいました。腹が減っているときに観ると、胃袋がきりきりしてきます。

2001年4月14日〜5月11日公開予定 三百人劇場「川島雄三〜乱調の美学」
配給・問い合わせ:アルゴピクチャーズ
ホームページ:http://www.bekkoame.ne.jp/~darts


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