ベンゴ

2001/03/26 メディアボックス試写室
ロマの血を引くトニー・ガトリフ監督が描く本物のフラメンコ。
歌も踊りもすべて本物の迫力が伝わってくる。by K. Hattori


 『ガッジョ・ディーロ』で東欧のロマ音楽を探究する旅を描いたトニー・ガトリフ監督が、ロマ(ジプシー)音楽の中では世界的にもっとも有名なフラメンコをテーマにした映画を作った。スペインのアンダルシア地方を舞台に、ロマの家族間で起きた流血沙汰と復讐の行方という物語になってはいるが、映画の中心テーマはあくまでもフラメンコ。ここで描かれる物語は、フラメンコのルーツや民族的なバックボーンを説明するためのものに過ぎないように思う。生活の中にしっかり根ざし、人が集まれば自然に始まるフラメンコの歌と演奏。フラメンコは舞台で演じられることも多いのだが、そもそもはスペインのロマたちが生活の中から生み出した普段着の歌であることがこの映画からは伝わってくる。

 ロマのルーツは北インド。今から数百年前、そこからロマの祖先となる人々が西へ西へと移動して地中海にぶつかると、あるグループはフランスを経由でスペインに入り、別のグループはエジプトから北アフリカを横切ってスペインに入った。ロマは移動の過程でその土地の音楽や文化を貪欲に吸収し、自分たちの音楽や文化の中に取り込んでいく。その最終到達地となったスペインでは、ロマがインド以来持ち続けた伝統と、ヨーロッパ各地の民族音楽、中近東からアフリカにかけてのアラブ音楽、そして古来からあるスペインの民族音楽がひとつに溶け合って、現在のフラメンコが出来上がったという。この映画は大胆にもロマ移動の源流をさかのぼり、エジプトのアラブ風音楽とフラメンコ演奏のコラボレーションを見せてくれる。ふたつはまったく異質なものに思えるのだが、節回しなどはなるほどよく似ているなと思う。アラブ音楽にフラメンコのリズムを付けても、あまり違和感なく聴けてしまうのだ。もちろん、そういう曲を選んでいるという面もあるのだろうけれど……。

 些細なケンカで幼なじみを殺し、家族を残して逃亡したマリオ。その弟カコの両肩に、一家を支える義務が重くのしかかる。一家の総領を殺されたカラバカ家は血の復讐を誓い、マリオの行方を探そうとする。だがカコは巧みに兄をかばって、決してその行方を知られないようにしている。カラバカ家は復讐の矛先を、マリオの一人息子ディエゴに向ける。娘を失って間もないカコは、実の息子のように可愛がっている甥っ子をこの争いに巻き込みたくない。だが事態はどんどん悪い方向に進む。カコの一族とカラバカ家の対立は一触即発の危機。

 この映画の中ではアンダルシアとロマとフラメンコが、不可分に強く結びついている。主人公カコを演じているアントニオ・カナーレスは、世界的に有名なフラメンコダンサーだそうだ。映画の中には彼が踊るシーンはほとんどないが、あえて踊らせないことで、ガトリフ監督は彼の内面にふつふつとたぎるアンダルシアの血のざわめきを表現しているのかもしれない。派手な衣装も何もなしに、酒場で歌われるフラメンコの素晴らしさ、トラックの荷台で女たちが踊るフラメンコの力強さ!

(原題:VENGO)

2001年5月公開予定 シネマライズ
配給:日活
ホームページ:http://www.vengo-jp.com


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