降霊

2001/03/22 TCC試写室
霊能力を持った主婦が夫と夢見た未来とは……?
黒沢清監督の和製ホラー。前半は恐い。by K. Hattori


 一昨年9月、フジテレビ系で2時間枠のドラマとして放送された『降霊 ウ・シ・ロ・ヲ・ミ・ル・ナ』の映画版。昨年2月には『カリスマ』公開にあわせた黒沢清特集でオールナイト番組の1本として上映されているし、5月には『降霊(KOUREI)』のタイトルでビデオも発売されているので、既に観ているという人も多いと思うが(そのせいかマスコミ試写も2回しか行われなかった)、僕は今回初めて観た。マーク・マクシェーンの「雨の午後の降霊術」という小説が原作だというが、物語はきちんと現代日本のお話に翻案されている。黒沢作品としては『カリスマ』と『回路』の間にはさまれている映画で、幽霊の描写には『回路』の習作的な部分も感じられて面白かった。テレビドラマということもあってか、出演者はかなり豪華な顔ぶれ。主演の役所広司と風吹ジュンは『カリスマ』と同じ顔ぶれだが、心理学教室の学生役で草g(くさなぎ)剛が出ていたり、降霊術を受ける若い女性役で石田ひかりが出演していたりする。神主役で哀川翔が出演するというのが、いかにも黒沢清の映画。似合いそうもないから普通はこういう配役にしないと思うんだけど、ぬけぬけとよくやるよなぁ。

 テレビの効果音技師をしている男とその妻の物語。じつはこの妻には強い霊能力があって、街の中でも時々人間ではない何者かの気配を感じたり、その姿をありありと見てしまったりすることがある。夫はそんな妻の不思議な能力を知っているが、あえて家の中でそれについて話題にはしない。妻の能力を頼りに相談に訪れる人が現れても、それについてあまり深くは詮索しない。この世の条理ではかりきれない妻の能力を家の中に抱えて生活するには、その能力について深く関わることを暗黙のうちにタブーにするしかないのだろう。この映画はこうした夫婦間の暗黙のルールを描いた序盤が面白い。ファミレスで働き始めた妻が、客にとりついている女の霊を見てしまう場面はすごく恐かった。結局妻はこのパートを辞めてしまうのだが、その理由について夫はまったく何も詮索しない。あれこれ事情を聞けば、夫婦は条理ならざるものに向き合わなければならなくなる。それを避けるには、あえて何も言わないのが一番なのでしょう。

 ところがこの夫婦は少女の誘拐事件をきっかけに、妻の持つ不思議な能力と向き合わざるを得なくなる。夫婦の間では妻の能力について堂々と語られるようになる。それまでおぼろげにしか姿を現さなかった幽霊が、映画の中でもはっきりと姿を現す。このあたりから、映画の持つ恐さは逆にトーンダウンしてしまう。結局幽霊というのは何だかよくわからない正体不明なところが恐いわけで、かくかくしかじかの理由でこの人に幽霊が取り憑きましたと解説されてしまうと、とたんに何も恐くなくなってしまう。少なくとも黒沢清の映画においては、そういう傾向があるようだ。これは監督本人も本作を通して自覚したようで、続く『回路』では徹底的に幽霊を正体不明な存在にして恐怖を維持している。

2001年4月中旬公開予定 吉祥寺バウスシアター
配給:スローラーナー


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