ザ・デリバリー

2001/03/21 TCC試写室
ドラッグの運び屋が政治テロ事件に巻き込まれてしまう。
オランダ生まれのアクション・ロードムービー。by K. Hattori


 ロエル・ラインというオランダの若い映画監督が作ったアクション・ロードムービー。高利貸しから借りた金の返済に窮し、悪党スパイクに渡りを付けてドラッグの運び屋をすることになったアルフレドとガイ。アムステルダムからバルセロナまで、各地の国境検問をすり抜けながら4日間で突っ走る旅だ。スパイクはアルフレドの妻アナを人質に取って、到着地に先回りしている。アルフレドとガイは輸送ルートの途中にある電話ボックスでスパイクと連絡を取りながら、脇見もせずに一路バルセロナを目指すはずだったのだが……。目の前にいきなりフォルクスワーゲンが降ってきて、中から赤毛の美女ルルが現れたことから雲行きが怪しくなる。彼女に一目惚れしたガイが彼女を車に乗せたことから、彼らは国際的なテログループの陰謀に巻き込まれてしまう。

 かなり無茶苦茶な話で、物語のあちこちに穴はあるし破綻も見える。登場人物の造形は行き当たりばったりの部分があるし、状況説明が不足してわけのわからない点も多い。しかしそれを強引に乗り越えていく、アクション演出の馬力にはびっくりだ。観ている側が「なぜ?」「どうして?」と思う間もなく、次々に事件が起きて場面が急展開していく。最初に主人公たち3人がバンで運んでいた荷物は何だったのか? なぜ3人は返済不能な借金を抱える羽目になったのか? スパイクはなぜドラッグ輸送に無意味とも思える遠回りをさせるのか? フォルクスワーゲンはどこから落ちてきたのか? テロ組織AAUを追う鬼刑事は、いったいどんな過去を持っているというのか? ガイが軍隊を辞めた理由は? こうした疑問点を脚本段階でまったく解決していないのは、作り手に「演出でカバーできる」という自信があるからなのか、それとも単に馬鹿なのか……。

 これらの疑問のほとんどは、ほんの1行か2行の台詞で解決がつきそうなものばかり。あまりすべてを説明してしまうのも面白味がないけれど、ここまで疑問だらけの映画なのはすごい。しかもそれらの疑問が、物語の展開にほとんどマイナスになっていないという大雑把さにも、僕は感心してしまうのだ。小賢しい伏線やサイドエピソードに神経を配るより、ひたすら物語をぐいぐい前に進めていってしまう粗暴さと馬鹿力は、妙に手慣れて小ぎれいにまとまった映画が多い昨今では貴重なものだ。こんなことは真似しようと思っても誰も真似できない。いわば天然ボケの面白さだと思う。

 オランダ、ベルギー、フランス、スペインと、欧州各地を転々と移動しつつ、降りかかる事件を解決していくという構成。少し移動してはドンパチがあって車が穴だらけ。そのままだと検問に引っかかるので車を盗んで荷物を積み替え、また次の地点に向かう。なぜ電話ボックスのチェックが必要なのかは不明だが、このアイデア自体は面白い。ただし結末をハッピーエンドにするなら、運ぶ物を現金とか金塊とかダイヤとか、すぐに処分できる物にした方がよかったと思う。

(原題:The Delivery)

2001年5月12日公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ(レイト)
配給:オンリーハーツ+マイピック 宣伝:オンリーハーツ
ホームページ:http://www.onlyhearts.co.jp


ホームページ
ホームページへ