ムルデカ
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2001/03/16 東宝第1試写室
インドネシア独立戦争に加わった旧日本軍兵士たち。
作り手の独りよがりが目立つひどい映画。by K. Hattori


 『プライド/運命の瞬間〈とき〉』の東京映像制作が製作した、映画版「教科書が教えない歴史」第2弾。今回は「インドネシア独立のために日本軍の兵隊たちが貢献した」という物語。日本の敗戦をインドネシアで迎え、その後も日本に帰国することなくインドネシアの独立戦争に加わった元日本軍兵士や軍属、現地駐留の日本人たちが大勢いたことは歴史上の事実です。しかしこの実話を現代の日本人にも共感できるドラマにするためには、もっと別の工夫が必要だったのではないだろうか。少なくとも僕はこの映画の主人公たちに、まったく何の共感も持てなかった。映画の導入部からずっと白けっぱなしだった。この映画は、現時点で今年のワーストワンです。

 この映画のダメなところを数え上げればきりがない。意図不明で面妖なカメラワークなど、観ていて尻がこそばゆくなるような場面も多い。しかしこの映画の最大の問題は、なんと言っても脚本そのものにある。そもそも映画の冒頭で、「大東亜戦争は日本の自衛戦争であった」と大書してしまう感覚がもう既にダメ。たとえ作り手がそう考えていたとしても、こんなことを声高に叫べばそれだけで観客の大半にそっぽを向かれること必至です。もしそれを自覚した上でこの映画を作っているのだとすれば、それはこの映画が、製作者側と同じ歴史観を持ったごく少数の観客に向けて作られたものであることを白状しているようなものです。もしそうだとすれば、この映画にどんな意味があるんだろう。インドネシア独立のために血を流した日本人がいたという事実を、「太平洋戦争は侵略戦争で、日本はアジア諸国に多大な迷惑をかけた」と信じている人に知ってもらわなければ意味がないと僕は思うのだ。でも映画の冒頭でそれを真っ向から否定するような文言が出てくれば、「太平洋戦争=侵略戦争」「旧日本軍=悪の軍団」と思っている人たちは最初からこの映画を心理的に拒否してしまうよ。それに無頓着なこの映画は、最初から失敗作なのです。

 独立戦争に加わった元日本軍兵士たちが、独立軍の中でリーダー的な役割を演じてインドネシア人たちから尊敬されるというストーリー展開も「なんだかなぁ」と思ってしまった。これじゃ日本の子供が南の島で酋長になる「冒険ダン吉」と同じじゃないか。それに、独立戦争に加わった日本兵が全員死ぬという結末もいただけない。実際には戦争を生き延び、独立後のインドネシアでそれこそ粉骨砕身働いて、現代のインドネシア社会で尊敬される地位を得た日本人も多いのです。この映画からは、そうしたインドネシアの日系人社会に対する敬意が感じられません。これは映画の主人公たちと同じく、実際に独立戦争を戦い抜いた日本人にすごく失礼だと思う。

 この映画の中で、数百人の日本人が犠牲になったスマラン事件の存在を完全に無視してしまったのはなぜか? 歴史に埋もれてしまった事件や事実の中から、日本人の誇りや矜持を取り戻そうという意図はわかる。しかしそのために肝心の歴史自体をねじ曲げるのは許されないよ。

2001年5月12日公開予定 全国東宝系
配給:東宝
ホームページ:http://www.toho.co.jp/movie-press/merdeka/


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