ハンニバル

2001/03/15 徳間ホール
『羊たちの沈黙』10年後の続編。監督はリドリー・スコット。
意外なことにこれが大傑作。素晴らしいでき。by K. Hattori


 今からちょうど10年前に製作され、アカデミー作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞と5つのオスカーを獲得した『羊たちの沈黙』は、それまで低予算B級刑事ドラマのモチーフだと思われていた「連続猟奇殺人」を使ってA級の映画が作れることを証明した作品だ。この映画がなければ、ギャラがバカ高い大スターが主演する猟奇殺人ものという映画ジャンルは、今のように隆盛を極めなかったかもしれない。『羊たちの沈黙』の成功なしに『セブン』が生まれたとは思えないのだ。数々のフォロワーを生み出した『羊たちの沈黙』だが、一昨年原作の続編である「ハンニバル」が出版されたことから、映画版の続編も作られることになった。前作に主演したジョディ・フォスターが諸般の事情で降板したものの、ハンニバル・レクター博士役のアンソニー・ホプキンスは引き続いての出演している。

 監督は『羊たちの沈黙』でオスカーを受賞したジョナサン・デミから、『ブレードランナー』『グラディエーター』のリドリー・スコットに交代。スコットの刑事ドラマは過去に『誰かに見られてる』『ブラック・レイン』などがあるけれど、どちらも一級の出来とは言いがたい中途半端な作品。そんなわけで今回の『ハンニバル』についてもスコット監督向きの素材とは思えず、映画ファンの多くはあまり期待していなかったと思う。僕も「どうせダメだろう」と思っていた。ところがそんな予想に反して、完成した映画は見事にスコットらしい芸術品に仕上がっているのだ。成功した理由は、スコット監督がこの映画を刑事ドラマや犯罪ミステリーという枠組みでとらえなかったこと。この映画は年の離れた男と女の愛情と絆の物語であり、不屈の意志を持った男の復讐譚なのだ。レクターとクラリスの間にある疑似父娘のような関係をベースに、レクターに顔の皮を剥がれた過去を持つ大富豪メイスン・ヴァージャーの用意周到な復讐計画と、自分やクラリスに危害を加えようとするヴァージャーに対するレクターの復讐が交錯する。

 『羊たちの沈黙』でドラマを動かしていたのは、連続猟奇殺人鬼のバッファロー・ビル。しかし今回登場するヴァージャーという男は、もっと直接的にレクターとクラリスに接触してくる。このヴァージャーという男の設定が秀逸だ。彼がクラリスに向かって、鋭い観察眼と心理分析の才能を披露する場面がある。短いシーンだが、これによってヴァージャーがレクターと似たタイプの男であることが観客にはわかる仕掛けだ。レクターとヴァージャーは歪んだ鏡に映し出された鏡像のような関係。そのふたりが正面から火花を散らしてぶつかり合うのだから、そこには壮絶で凄惨なドラマが生み出される。

 残酷なシーンは多いのだが、どの殺人シーンもエレガントで、あまり血なまぐささは感じない。アンソニー・ホプキンスが人肉料理を作るのは、彼が主演した『タイタス』を思い出してしまった。『タイタス』を観ていると、最後のオチもあまり驚かないかもしれない。

(原題:HANNIBAL)

2001年4月7日公開予定 丸の内ルーブル他 全国松竹東急系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
ホームページ:http://www.hannibal.ne.jp


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