ベレジーナ

2001/03/07 映画美学校試写室
スイスにやってきたロシア人娼婦が見た秘密とは?
ダニエル・シュミット監督のコメディ映画。by K. Hattori


 『ラ・パロマ』『ヘカテ』のダニエル・シュミット監督最新作。物語の舞台はスイス。永世中立国としてヨーロッパの中でも孤高の地位を保つこの国に、成熟した民主主義と平和主義の香りを感じてやってきたのは、ロシア出身の娼婦イリーナだ。彼女は政財界の大物にたかる経済弁護士ヴァルト博士の口利きで、スイス各界の大物たちを顧客にした高級娼婦へと成り上がる。イリーナへの報酬は、彼女にスイスの市民権を与えること。彼女が正真正銘のスイス国民になることを、故郷の家族たちも心待ちにしているのだ。イリーナは自分のもとを訪れる老人たちに献身的なサービスをし、老人たちはイリーナの魅力にメロメロ。だが彼女はしょせん、ヴァルト博士が国の中枢に取り入るための道具でしかない。彼女がどんなに市民権を求めても、男たちは彼女の要求をのらりくらりとはぐらかすばかり。人を疑うことを知らなかったイリーナも、やがては自分が単に利用されていただけだったということを思い知らされる。だがショックに打ちのめされ、薬と酒で酩酊状態に陥った彼女の行動が、思いがけずとんでもない事態を引き起こすのだ。

 クライマックスの大どんでん返しは観ていてきわめて痛快なのだが、それに比べると映画の序盤から中盤までが軽やかさに欠ける。国を牛耳る政財界の大物たちの俗物ぶりをあげつらい、皮肉ったり茶化したりするにしても、エピソードの組立がやや平板なのではないだろうか。序盤にもう少しテンポがあれば、中盤のサスペンスや終盤のどんでん返しももっと生きてくると思う。例えばヒロインがいきなり老将軍に射殺されるという意表を突くオープニングだが、このオープニングの意味がしばらくつかめず観ている側が右往左往してしまう。こんなものは最初の5分か10分で「ああ、なるほどね」と観客にわからせておいてもいいんじゃないだろうか。こういうつまらないところで、観客を宙づりにしてしまうところも、序盤の重さの原因になっているような気がする。

 物語はイリーナと将軍の関係で始まり、最後もイリーナと将軍の関係で終わる。だったら最初から最後までこのふたりを中心にエピソードを組み立てた方が、全体のまとまりはよくなったかも。こうした整理整頓癖は、ハリウッドのエンタテインメント作品の話法にすべての映画を当てはめようとする、狭量な考え方かもしれない。でもこの映画のアイデアやストーリー展開、特にクライマックスのナンセンスなどんでん返しは、ハリウッドのどんなエンタテインメント作品にも負けないぐらい面白いのだ。イリーナの手紙に一喜一憂する家族の様子を写し出すシーンも面白いのに、ギャグとしてはあまり生かされていないのが残念でならない。

 与えられた権力の上にあぐらをかいて左うちわで暮らす男たちに、外国人の娼婦が一泡吹かせるという話は、日本を舞台にしても成立しそう。ヒロインを韓国人の娼婦にでもすれば、相当毒の効いたコメディになりそうだ。でも最後のオチは、日本ではちょっと無理かな。

(原題:Beresina: Oder Die letzten Tage der Schweiz)

2001年4月28日公開予定 ユーロスペース
配給・宣伝:ユーロスペース
ダニエル・シュミット公式サイト:http://www.daniel-schmid.com


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