ダブルス

2001/03/06 シネカノン試写室
エレベーターに閉じこめられた強盗ふたりの運命は?
主演は萩原健一と鈴木一真。by K. Hattori


 『[Focus]』『破線のマリス』の井坂聡監督最新作は、インターネットで出会った男ふたりが深夜のビルから現金6千万円を強奪するサスペンス。自分の経営していたソフト開発会社を追放された鈴木一真は、自分を追い出した会社に復讐するため、社長室の金庫に眠る多額の現金を強奪する計画を立てる。相棒として白羽の矢を立てた相手は、インターネットで知り合った元鍵師の萩原健一。ふたりは“GUN”と“KEY”というハンドルネームで互いを呼び合い、メールの打ち合わせを繰り返しながら現金強奪計画を練り上げる。コンピュータでシミュレーションした結果によれば、成功確率はほぼ100%。ふたりは標的となる会社の入口で初めて直接顔を合わせ、計画通りにまんまとビルの中に侵入し、難なく現金を奪い取ることに成功。だが意気揚々と帰還の途中、エレベーターが故障してふたりは缶詰になってしまうのだ。

 劇中では萩原健一と鈴木一真の役名がハンドルネームのみ。まったく見も知らない他人同士が大きな犯罪を共同で行うというのは、実際にはあり得ないことだろう。相手の技量や度胸がどの程度のものかまったくわからないし、そもそも犯行計画が実施される保証もない。一世一代の大博奕を打とうという場面で、そんな雲をつかむような話に乗る馬鹿がいるとは思えない。しかしこれは映画である。映画の中には、そういう馬鹿もいるのだ。だから「こんなことあり得ない」と文句を言っても仕方がない。それに今の世の中には何度かメールをやりとりするだけで、会ったその日にセックスしてしまう男女だっているのだ。だからひょっとしたら、メールのやりとりだけで成立する犯罪計画というのがあるかもしれない。

 現金強奪の話だが、映画のほとんどはエレベーターに缶詰になってからの話。これを深夜レストランで偶然同席になった美女と女子中学生の会話シーンとカットバックさせながら、物語が進行していく構成だ。女のひとりはこの場所で、エレベーターに閉じこめられた中年男と待ち合わせをしているらしい。『ダブルス』というタイトルは、男ふたりと女ふたりの会話シーンをカットバックさせていくこの映画のスタイルを、テニスや卓球のダブルスゲームになぞらえてのものだろう。

 映画の見どころはエレベーター内部での、萩原健一と鈴木一真のふたり芝居。それまで互いに相手のことを何も知らなかった男たちが周囲に何もない小さな密室の中で、時に口角泡を飛ばして相手をなじり、時にはしんみりと自分たちの人生について話をする。いろいろなものを背負い込んでいるように見える萩原健一の語りも味があるし、それを真っ向から受け止めて一歩も引かない鈴木一真もたいしたもの。ふたりの会話が煮詰まってきた頃に、うまい具合に第三者を割り込ませるのもうまい。

 映画が始まった直後から「どこかで見た建物だなぁ」と思ったら、撮影に使われたビルは僕が前に住んでいたマンションのすぐ目の前にある建物だった。そんなこともあって、すごく親しみを感じる映画です。

2001年春公開予定 テアトル新宿、テアトル梅田 他
全国順次ロードショー
配給:オメガ・ミコット
オフィシャル・ホームページ:http://www.doubles-movie.com/


ホームページ
ホームページへ