あしたはきっと…

2001/03/05 シネカノン試写室
吹石一恵主演のファンタジックな青春ストーリー。
日常の風景描写に好感が持てる。by K. Hattori


 アイドルタレントの吹石一恵が主演した青春ファンタジー映画。監督は三原光尋。三原監督といえば『燃えよピンポン』『ヒロイン!なにわボンバーズ』『絵里に首ったけ』などのハチャメチャなスポ根コメディを得意とする人。今回もヒロインが空手部に所属しているという設定で、僕は絶対にハチャメチャ路線になるのだろうと思っていたのですが、映画はなんともストレートな青春ドラマに仕上がっています。脚本は『きみのためにできること』『蝉祭の島』の高橋美幸。

 物語の舞台は一面にぶどう畑が広がる田舎町。主人公の水沢夏音は空手部所属の高校2年生。映画は彼女が憧れる3年の先輩部員や友人たちとの関係を軸に、入院している祖母や家族との関係、ぶどう畑で出会った不思議な少女との交流などを描いていく。物語の大きなポイントはぶどう畑の少女が持つ不思議な能力で、同じ日が二度来るなど夏音の願い事がことごとくかなってしまう部分。少女の正体が何者なのかというオチは最後に用意されているけれど、この少女の役回り自体は『素晴らしき哉、人生』の天使などに通じるものです。主人公の「こんな人生はまっぴらだ」という願いを聞いて、その願い通りに別の人生を見せてあげる役目。主人公はそこで自分自身の人生を見つめ直し、やり直しのきかない人生の素晴らしさを悟る。まぁ話としてはよくあるパターン。新鮮味がないといえばない。不思議な少女の正体も、察しのいい人ならすぐに気付いてしまうだろうし……。

 僕はこの映画に好感を持っているのですが、それはこのお話のアイデアに感心したわけではなく、その周辺にあるさまざまなエピソードやキャラクターに魅力を感じているからです。主人公の先輩への恋心、主人公の親友と幼なじみの交際、家族との関係などが、じつに丁寧に描かれている。八百屋の店先で大きなお腹を抱えている知り合いの女性の存在なども、物語の世界に広がりを与えています。不思議な少女をめぐるこの映画の仕掛けは、こうしたエピソード群をまとめる意味しか持っていないのではないだろうか。そういう意味で、この映画はドラマとしてちょっとバランスが悪い。不思議な少女を使ってもっとドラマチックに物語を盛り上げることが本来は期待されているのでしょうが、それを軽く扱いすぎているような気もする。このあたりは脚本や演出の段階で、もう少し強調してもよかったかもしれない。

 主演の吹石一恵の演技は硬いと思うけれど、映画の芯になるだけの存在感があって光っている場面も多い。特に何度か繰り返される先輩への告白シーンがいい。憧れの谷口先輩を演じているのは、『オーディション』『ブギーポップは笑わない』『閉じる日』などの沢木哲。ヒロインに馴れ馴れしい態度で接してもベタベタしたところがなく、いかにも今風の男の子という感じがする。このふたりのからみは、ちょっとドキドキしたり照れくさくなったりして、ずいぶんと感情移入させられます。お弁当や水道のシーンで見せるヒロインの表情がいい!

2001年5月19日公開予定 新宿シネマ・カリテ
2001年4月28日公開予定 ワーナー・マイカル・シネマズ茨木、ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田
2001年5月中旬 イオンシネマ久御山 全国順次ロードショー
配給:大映


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