I.K.U.

2001/03/02 映画美学校試写室
バーチャルセックス用のデータを集めるレプリカントたち。
近未来の日本を舞台にしたサイバーポルノ。by K. Hattori


 西暦2016年に創業されたゲノム・コーポレーションは、地球外労働用に開発されたレプリカントを介護労働に転用するビジネスでその基礎を築く。だが間もなくレプリカントをポルノ俳優として出演させるアイデアをヒットさせ、デジタル快楽ビジネスの世界帝国を築き上げることに成功した。現在ゲノム・コーポレーションの売り上げを支えているのは、同社が開発したI.K.U.システム。これはデータ収集用のレプリカント“レイコ”を使って人間のオーガズムデータを収集し、それをI.K.U.チップとして安価に販売するもの。チップのデータはネットフォンという携帯端末でデコードされ、人間の脳に直接オーガズムの刺激を流し込む。つまりは究極のバーチャルセックスを提供するわけだ。

 SF映画『ブレードランナー』の世界観を借用したサイバーポルノ映画。人間型ロボットの呼称「レプリカント」もそうだが、映画の冒頭とラストシーンは、『ブレードランナー』の場面をそのまま引用している。だが物語の舞台は近未来のロサンゼルスではなく、近未来の東京らしい。『ブレードランナー』では英語ベースの会話に時々日本語が混ざったりしているが、『I.K.U.』では日本語ベースの会話に時々英語が混ざったりする。

 物語らしきものは特にない。オーガズムデータを収集するため街に出たレイコが、次々に姿を変えながら(あるいは複数のレイコがいるのか?)手当たり次第に男女と交わり、最後はI.K.U.ランナーと呼ばれるゲノム・コーポレーションの社員にデータを回収されるというだけの話。主人公であるレイコが移動すると共に次々物語の局面が変化し、それぞれには関連のないエピソードが数珠つなぎになっている。エピソードを通してこの映画の描き出そうとする世界観のようなものも断片的に紹介されるが、それが発展して大きなエピソードになることはない。例えばゲノム・コーポレーションと競合するバイオ・リンク社の存在や、同社がレイコからオーガズムデータを盗むために開発した“東京ローズ”の存在、I.K.U.システムのようなデジタル刺激なしに快楽を供給するセックス・ドラッグ“桃山”なども、物語の中に少し登場してそれっきりだ。惜しげもなくアイデアを考案し、無駄に挿入している雰囲気。こうしたアイデアのばらまき方は、ちょっとサイバーパンク風なのかもしれない。

 何度も繰り返しセックスシーンが描かれるが、ほとんどすべてのシーンに強いモザイク処理がされている。作り手側はこのモザイクによる規制を逆手に取り、このボカシそのものを表現の中に取り込んでいるような気がする。性器が写っていそうもない場面でも、いちいちモザイク処理をかけたりしているからだ。

 ポルノ映画としてはまったく冴えない内容だと思うし、映像表現としても特に目新しさは感じない。だがこのどうしようもない安っぽさには駄菓子っぽい魅力を感じ、カルト映画としてのめり込む人もいるに違いない。賛否両論にさらされるのがカルト映画の宿命だ。

(原題:I.K.U.)

2001年4月公開予定 渋谷シネパレス
配給:アップリンク


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