スターリングラード

2001/02/28 日本ヘラルド映画試写室
1942年のスターリングラードをソ連側から描く戦争映画。
主人公には実在の名狙撃兵だという。by K. Hattori


 第二次大戦でドイツに致命的な打撃を与えたのがノルマンディ上陸作戦だとすれば、その前にドイツの快進撃を阻止し窮地に追い込んだのが対ソ連戦だ。戦いのターニングポイントになったのは、ボルガ河畔の都市スターリングラード(現:ボルゴグラード)をめぐる攻防戦。'42年の夏に始まった戦闘はドイツ軍優勢だったが、ソ連軍のねばり強い抵抗にあって長期化。11月からはソ連軍の大反撃が始まって、2ヶ月後にはドイツ軍が降伏する。この戦闘については'93年にドイツで『スターリングラード』という映画が作られている。無敵のドイツ軍が泥沼の戦場で疲弊し、みじめに壊滅して行く様子を青年兵士たちの視点からリアルに描いた作品だった。

 今回の映画はソ連側の兵士の視点からスターリングラード攻防戦を描いているが、ドイツを悪役にしてソ連の勝利を讃えるような内容にはなっていない。映画で描かれるのはドイツが町をほぼ手中に収め、陥落が目前に迫ったかに見えた'42年9月から、11月に始まるソ連軍の大反撃の直前まで。これはスターリングラードでソ連軍が一番苦しみ抜いていた時期だ。ソ連軍の華々しい活躍など、この中で描けるはずがない。この映画の中には勝者が登場しない。ソ連の大反撃は映画の中からすっかり省略され、連合軍の勝利も描かれない。勝者も敗者もない泥まみれの戦場の中で、痩せこけた人間たちが冷たい泥水の中を這い回りながら敵と戦う。ソ連軍内部にある非人間性。共産主義の理想の下にある人間の愚かさ。今さら共産国ソ連を悪者にしても仕方がないから、これは戦争一般の中に見られる国家の大義や組織への忠誠心と、個人の葛藤を描いた映画だとも言える。

 ジュード・ロウが演じる狙撃兵ヴァシリ・ザイツェフは実在の人物で、今でも第二次大戦の英雄として讃えられている伝説的人物だという。だが伝説の常で、その実像は今となってはまったく不明。この映画に登場するヴァシリ像は、監督たちが「本当はこんな感じだったのではなかろうか」と想像したもののようだ。

 主人公たち新兵が列車でスターリングラードの対岸に到着する、映画の冒頭15分ぐらいはものすごい迫力。いかにも『プライベート・ライアン』以降の戦争映画に仕上がっている。列車を降りた兵士たちの目に飛び込んできたのが、すっかり瓦礫の山になったスターリングラードだというのがこの映画のすごさ。明らかな負け戦の中に送り込まれる兵士たちの恐怖感が、観客席にまで伝わってくる。観客はあらかじめスターリングラード攻防戦がソ連の勝利に終わることを知っているのだが、それでもこの風景はすごい。目の前にあるのは町ではなく、徹底的に破壊され尽くした町の残骸だ。

 監督・脚本はジャン=ジャック・アノー。ジュード・ロウが主人公を好演するが、面白いのはジョセフ・ファインズ演じる若い将校。しかしレイチェル・ワイズとの三角関係は少し中途半端。ボブ・ホスキンスがフルシチョフを演じ、エド・ハリスがドイツの狙撃兵を演じる。

(原題:Enemy at the Gates)

2001年4月公開予定 スカラ座1 全国東宝洋画系
配給:日本ヘラルド映画


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