富江
re-birth

2001/02/16 徳間ホール
富江は殺されても復活し、増殖し、今度は他人に寄生する。
伊藤潤二原作の人気シリーズ第3弾。by K. Hattori


 菅野美穂主演の『富江』や宝生舞と山口紗弥加主演の続編『富江 replay』に続く、伊藤潤二の原作の人気ホラー・シリーズ第3弾。今回の主演は酒井美紀と遠藤久美子。このシリーズは続編といっても、富江役の主演女優がころころ変わる。『リング』シリーズでも貞子役の女優が次々変わるからそういう意味では同じなのだが、『富江』シリーズは物語さえつながらない。“富江”というモンスターの設定はだいたいいつも同じだが、共通するのはほとんどそれだけ。僕は過去2作もあまり面白いと思わなかったのだが、どうやらビデオ市場ではそれなりの人気商品になっているらしい。

 今回は過去2作に比べると、ドラマ作りの面でいろいろな意欲の見える作品に仕上がっている。富江が次々に男たちを翻弄し、破滅させていくという基本線は同じだが、それと並行して同棲中の学生カップルを登場させ、富江との三角関係を展開させるのだが。今までは富江相手に単なる「殺され役」でしかなかった男たちも、この映画の中ではそれぞれキャラクターの輪郭が明確になり、物語の中で生き生きと活動している。圧巻は脇に配置されている、富江の魅力の虜になった青年と母親を交えた壮絶な三角関係。溺愛する息子が富江に夢中になっていることに嫉妬し、ついに富江に殺意まで感じる母親を演じているのは中島ゆたか。富江とこの母親の対決は嫁姑戦争みたいで面白い。タバコの火をめぐる一件や、コーヒーをはさんでのやりとりなどは観ているとワクワクしてくる。結末も不気味でドキリとさせられた。

 富江と関わり合いになる3人の青年たちについては、それぞれの育った家庭環境や背景がきちんと描かれている。それが今回の映画に、物語の厚みを出しているのだと思う。しかし映画の中で、富江を除くとただひとりだけ、生活の背景が描かれていない人物が登場する。それが遠藤久美子が演じているひとみという女性だ。同棲している恋人・巧については実家の家族が総出演するというのに、ひとみについてはまったく何も描かれていない。彼女は富江と深く関わっていく重要な人物なのだが、その人物がまったく薄っぺらなのは解せない。映画ではその人物像の薄さを、遠藤久美子という女優の魅力でカバーしようとしているようだが、どう観てもカバーし切れているようには思えないのだ。このヒロインの場合、富江と関わり合ったことで重大なアイデンティティの危機に襲われる。自分自身の過去やパーソナリティが失われ、富江のそれと入れ替わっていくのだ。だとすればなおさら、富江に奪われる彼女自身の過去やパーソナリティをしっかり描きこんでおくべきではないだろうか。

 監督はホラー作品『呪怨』で高い評価を受けた清水崇。今回の映画では観客を徹底的に恐がらせることより、少し距離を置いてエピソードにユーモアの要素を入れようとしているようにも見えた。それが富江の生首になったり、口からゾロゾロになったり、顔がグニャリだったりするのではないだろうか。でもちょっと中途半端かな。

2001年3月24日公開予定 新宿ジョイシネマ(レイト)
配給:大映 問い合わせ:大映、東映ビデオ


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