Green fingers
グリーンフィンガーズ

2001/02/16 GAGA試写室
偶然出会ったガーデニングによって更正して行く囚人たち。
目指すは女王陛下のフラワーショウだ。by K. Hattori


 十代の終わりに刑務所に入り、人生の半分近くを塀の中で過ごしているコリン・ブリッグス。家族や知人たちとの連絡も絶ち、ただぼんやりと無気力に刑務所の中で年月を過ごすうち、もはや中年になりかけている。そんな彼が移送されたのが、郊外にある開放型の更正刑務所。高い塀もなければ部屋のカギもないこの新しいタイプの刑務所は、脱走の心配がなさそうな模範囚ばかりを集め、外界との接触をゆるやかに保ちながら、囚人たちに職業訓練を施して更正を手助けしようという施設だ。コリンはここで、たまたまガーデニングの仕事を与えられる。土を掘り返し、種や球根を植えているうちに、コリンは自分の中からそれまで忘れていた感情が蘇ってくるのを感じる。生きる意欲を忘れていたコリンは、囚人庭師として新しい人生の一歩を歩み始める。

 『グリーンフィンガーズ』というタイトルはイギリス英語で「園芸の才能」という意味だそうだ。映画の冒頭でこの物語が実話をもとにしていると断りが出るが、登場するキャラクターはどれも架空のものだろう。おそらくは映画に登場した開放型刑務所と、そこの受刑者たちがハンプトンコートのフラワーショウに出品したというエピソードだけが実話なのではなかろうか。

 映画のストーリー展開はガーデニング版の『フル・モンティ』という感じ。罪を犯して人並みの人生から落後した受刑者たちが、フラワーショウへの出品を通して真人間へと再生していく。炭鉱労働者たちがコンサート会場で社会への異議申し立てをする『ブラス!』と似ている面もある。それにしても映画の最後には主人公たち王立園芸協会の主催するフラワーショウに招待され好評を博するという展開を見ると、イギリスでは「王室」という権威がいまだにきちんと衆目の一致する権威として機能しているのだなと感心する。日本で同じような映画を作って、仮に受刑者が御所に招待される場面を作っても、この映画のような爽やかさは生まれてこないと思うのだ。日本の場合、皇居や御所でもだめだし、かといって首相官邸でもまったくだめだろう。アメリカなら大統領の前に出ればそれなりの格式が生まれるだろうが、日本には誰もが納得する権威というものがない。変な国だ。

 映画の中では『ウェイクアップ!ネッド』のデビッド・ケリーが演じるファーガスという老終身犯が、物語の中のよいアクセントになっている。この人物がいなければ、この映画はずいぶんと平板なストーリー展開になっていたはず。コリンを演じているのは『ベント/墜ちた饗宴』のクライヴ・オーウェンだが、この人物にあまり大きな魅力がないのがこの映画の欠点。『鬼教師ミセス・ティングル』のヘレン・ミレンが高名な園芸家を演じているが、この役も登場前にもっと膨らましておいた方がよかったと思う。サイン会で登場したときに「これがあのウッドハウス先生!」という感じがしないのだ。

 イギリス映画だが、監督・脚本のジョエル・ハーシュマンはブルックリン出身のアメリカ人だったりする。

(原題:Greenfingers)

2001年4月上旬公開予定 シャンテシネ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ 宣伝:LIBERO


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