パダヤッパ

2001/02/01 シネカノン試写室
『ムトゥ/踊るマハラジャ』と同じメンバーが作ったミュージカル映画。
主人公に惚れる悪女にむしろ同情してしまう。by K. Hattori


 日本にインド映画の大ブームを引き起こした『ムトゥ/踊るマハラジャ』の監督・音楽・主演スターが再結集して作った、上映時間3時間のエンタテインメント・ミュージカル。主演のラジニカーント、監督のK・S・ラヴィクマール、音楽のA・R・ラフマーンなどは『ムトゥ』と同じ顔ぶれだが、『ムトゥ』と同じ楽しさを期待すると裏切られると思う。この映画も相当に楽しい作品ではあるけれど、やはり『ムトゥ』というのは破格の映画だったのだと痛感してしまう。

 パダヤッパというのはインドの神様の名前。その名をもらった主人公は、周囲からの人望も厚い大地主の一人息子。彼は都会の大学を出て働いていたのだが、妹が婚約するというので実家に戻ってくる。そこで彼が出会って一目で恋に落ちる相手は、妹の婚約者宅で下働きとして働く美しい娘バスンダラ。ところが妹の婚約者の妹ニーランバリも、男らしいパダヤッパに惚れ込んでしまう。資産家の家に生まれ育って幼い頃から自己中心的で傲慢な性格に育ったニーランバリは、パダヤッパの気持ちが使用人のバスンダラに傾いているのが我慢できず、何かと彼女に意地悪や嫌がらせをする。不正を憎んで正義を愛し、時には腕に物を言わせて自分の主義を貫くパダヤッパだが、女性にはからきし弱い。彼は自分の気持ちをバスンダラに伝えることができないのだ。

 物語の基本は、パダヤッパ、バスンダラ、ニーランバリの三角関係。しかし物語を大きく引っ張っていくのは、何がなんでもパダヤッパを我がものにしようとするニーランバリの執念深さだ。彼女はこの物語の中で明らかに悪役なのだが、人物像としてはむしろ映画の中の誰よりも面白いキャラクターになっている。彼女の魅力は、活動的で自分の意見を堂々と主張する現代性にある。親の決めた結婚話に簡単に従う兄や兄嫁を見下し、自分は絶対に好きな人と結婚するのだと主張したり、財産をすべて叔父に奪われ無一文になったパダヤッパ一家を自分の家族がみんな見捨てても、そんなことに関係なく「私はパダヤッパと結婚する」と言い切る潔さがある。使用人に対する彼女のサディスティックな態度はかなり問題だが、ことパダヤッパに対する気持ちに関する限り、彼女は彼女なりに一途だし可愛いところがあるんじゃないだろうか。金持ちの一人娘として何不自由なく育ちながら、結婚に地位も財産も関係ない、大切なのは自分の気持ちだけなんだと言い切れる彼女は格好いいと思う。僕はニーランバリにかなり同情的。男性からの求愛にひたすら受け身のバスンダラより、ニーランバリの方がよほどいいと思う。映画の作り手たちも、じつはこの悪女ニーランバリが気に入っているようで、彼女のために幾つかのミュージカルシーンが用意されている。

 スタジオで撮影されているミュージカルシーンの中には、バズビー・バークレー調のものがあったりする。MGMを筆頭に50年代に花開いたハリウッド・ミュージカルの末裔は、今やインド映画として生き残っている。

(原題:PADAYAPPA)

2001年春休み公開予定 銀座シネパトス
配給:日本スカイウェイ、アジア映画社


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