勝利をわが手に
港の乾杯

2001/01/29 日活試写室
鈴木清順監督のデビュー作。この当時は鈴木清太郎。
当時のヒット曲を使った歌謡映画らしい。by K. Hattori


 1956年に製作された鈴木清太郎(2年後に鈴木清順に改名)監督のデビュー作。港町横浜を舞台に、元船乗りだった兄と競馬ジョッキーの弟の兄弟愛、弟に近づく謎めいた美女と、彼女を利用して弟に八百長レースをさせようとする腹黒い男の存在などを描く。脚本には浦山桐郎の名前が見え、助監督には蔵原惟繕や藤田敏八が参加している。なんだかすごいメンツだよなぁ。

 鈴木清順というのは何かと伝説の多い監督だけれど、僕は作品をほとんど観ていないので、巷間言われているような様式美や映像美について僕がコメントする筋合いはない。それより思うのは、この監督がデビューした昭和31年という時代についてだ。この時代は映画館の観客動員数がピークに達しようという時期だが、わずか数年後に映画は観客数が激減して一気に斜陽産業へと転落する。鈴木清太郎が鈴木清順に改名した頃から、映画人口は坂道を転がり落ちるように減少の一途をたどる。清順監督が『殺しの烙印』を作って日活をクビになったのは昭和42年だけれど、そのわずか数年後には日活がロマンポルノに路線変更している。鈴木清順という監督は、日活という日本最古の映画会社の最後に花開いた、あだ花みたいな監督なんだなぁ……。

 『勝利をわが手に/港の乾杯』は上映時間65分のB級映画で、「はぁ、これがデビュー作ですか」という以外には特に見どころのない映画だと思う。船員たちが集まる港の酒場があって、そこに仲のいい兄弟が昔から出入りしていて、兄は船員になり、弟は競馬の騎手になる。話そのものはかなり通俗的なメロドラマ。こういう映画は「なぜそうなるの?」「もっとうまい解決法があるんじゃないの?」などと考えてはいけないのだろうか。弟は質の悪い男に強迫されて八百長レースに誘われているのだから、警察に駆け込むなり協会に相談するなりすればよかろうに。悪い男の情婦をしている女も、弟のことが好きならなぜ男のもとから逃げ出してしまわないのか。なにか男に弱みでも握られているのか。そうした事情を一切描くことなく、男と女がぐだぐだやっている様子を見るのはかなりくたびれてしまう。

 映画の中ではエピソードが対になるシーンがいくつかあるのだが、それがうまく機能していないような気もする。兄が弟をおぶって歩く2回のシーン。兄が弟に自分の上着を掛けるシーンと、弟が自分の上着を兄の背に掛けるシーンの繰り返し。こうした印象的な行動の意味がもう少しかみ合ってくると、物語に芯が通って力強いものになってきたと思うのだが。

 作り手の狙いはわかるが、うまく機能していない演出の力不足も多い。しかしこれは、役者の力不足もあるだろう。主役である兄弟にもっと存在感があれば、この脚本でも勢いでどんどん乗り切れてしまうと思う。「なぜそうなるの?」という疑問を、キャラクターの魅力で有無を言わせぬものに仕上げることもできたと思う。全体に手堅くこじんまりまとめた作品という印象だ。

2001年春公開予定 テアトル新宿(レイトショー)
配給:日活 宣伝:スローラーナー


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