ヤン・シュヴァンクマイエル
Touch & imagination
触覚と想像力
(Bプログラム)

2001/01/24 シネカノン試写室
チェコのアニメ作家ヤン・シュヴァンクマイエルの初期作品6本。
不気味でユーモラスな機械仕掛けの悪夢。by K. Hattori


 『アリス』『ファウスト』『悦楽共犯者』などの作品で知られるチェコのアニメーション作家、ヤン・シュヴァンクマイエルの初期短編作品12本を集めた特集上映のBプログラムは、'66年から'80年までの作品6本を集めている。以下作品ごとに内容と感想。

 2体の指人形による凄惨な殺し合いを1匹のハムスターをからめて描く『棺の家』は、'66年に製作された10分強のカラー作品。リズミカルな音楽に合わせて、互いに巨大な木槌で相手をボコボコに殴りつけ、棺桶に放り込んで釘を打ち付ける男たち。コマ撮りのアニメの部分もあるが、それより指人形の動作をフィルム上で編集している部分の方が多いと思う。動作と動作の間を切りとばして、コマ撮りアニメのようなカクカクした動きにしているようだ。明らかに実写そのままの場面も多い。結局シュヴァンクマイエルという作家は、アニメ作家というより映像作家なんでしょうね。そして自分の映像表現のために、アニメという技法を使っている。ひたすらエサを食い続けるハムスターの姿には、『アリス』に登場する剥製のウサギと似た不気味さがある。

 同じく'66年に製作された『エトセトラ』は、7分強の中で3つのエピソードが登場する。ひとつは紙版画のようなタッチで、翼のある男の動きを表現した作品。もうひとつは、猛獣と猛獣使いの男がムチのひと振りごとに姿を変えて入れ替わる様子を、水彩のボカシを使って表現したもの。3つ目は切り抜きで表現された男が鉛筆で家の形を描き、その下でさまざまな絵柄が動き回る。アニメにはいろんな技法があるなぁと感心する。

 '70年の『コストニツェ』は10分半の実写フィルム。無数の人骨がさまざまなオブジェを作り出している納骨堂の映像に、納骨堂内部を案内する女性の声や観客の声がかぶさる。だがそこにまったく人影はない。アニメではない。実景と音声の微妙なズレを実験的な手法で表した、一種のドキュメンタリーフィルムだ。

 エドガー・アラン・ポーの原作をアニメ化した『アッシャー家の崩壊』は'80年に作られた16分弱のモノクロ作品。原作の朗読に、実写やアニメで表現されたシーンが重なり合っていく。ただし人間は登場しない。ざわめく木々の枝、ひび割れた壁、不気味に動き回る棺、観る者に何かを伝えようと悶える木の葉の渦。意志を持った館に押しつぶされていく人間たちの恐怖が、アニメ技法によって巧みに表現されていると思う。

 レオナルド・ダ・ヴィンチのデッサンをモチーフにした『レオナルドの日記」は、'72年に製作された12分弱のカラー作品。デッサンが動くというアイデアと、そこに古いニュース映像のような実写フィルムをつなぎ合わせるというアイデアが面白いと思った。

 今回の上映で一番長いのは33分弱の『ドン・ファン』。人形芝居の人形が機械仕掛けで動き始めるという趣向で、仮面をかぶった役者たちが、血生臭い物語をコミカルな動きで演じている。'70年製作。

2001年G.W.公開予定 シネマ・カリテ
配給:チェスキー・ケー、レンコーポレーション 問い合わせ:レンコーポレーション


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