スイート・ムーンライト

2001/01/19 TCC試写室
香港のスタッフとキャストが日本を舞台に作ったラブストーリー。
日本は香港の若者たちにとって憧れの国だ。by K. Hattori


 日本人がアメリカのテレビドラマや映画の影響でアメリカに憧れの気持ちを持つように、香港では日本のテレビドラマやマンガの影響で日本に憧れる若者が大勢いるらしい。日本のアイドルタレントが香港や台湾で大人気という話は時々ワイドショーの話題にもなるけれど、「日本大好き!」という気分は最近の香港映画にも現れてきている。ジャッキー・チェンは日本のマンガを映画化して『シティー・ハンター』を作った頃にその兆候は逢ったのかもしれないが、最近の日本ブームはそれ以上だ。香港映画『美少年の恋』はこれが原題で、タイトルの中にわざわざ平仮名の「の」を入れて日本語風のタイトルにしている。『超速伝説/ミッドナイト・チェイサー』は日本のアニメ『頭文字〈イニシャル〉D』からもろに影響を受けている。『東京攻略』とこの『スイート・ムーンライト』は、映画の大部分を日本でロケしており、出演者たちが片言の日本語を喋ったりする。どうやら香港の人にとって、日本はすごくおしゃれでカッコイイ国らしいのだ。日本人がニューヨークに対して抱くのと同じような気分が、香港の日本好きにはあるのかもしれない。もっとも好きなのは「日本」や「東京」であって、「日本人が好き!」というわけではないらしいが。

 この映画の中には東京のいろいろな場所が出てくる。その紹介の仕方は、『ローマの休日』のローマ観光案内のようだ。新宿、渋谷、原宿、表参道、下北沢、上野公園、河原の土手などの風景が断片的に登場し、その地理関係はかなりデタラメで無理があるのだが(どうやったら1日のデートでそれらを全部回れるんだ?)、こうした場所がロケ地に選ばれているからには、香港の若い観客たちもこうした場所を知っているということでしょう。ここには浅草寺も鎌倉も東京タワーも新宿の高層ビル街も出てこない。神社仏閣、風光明媚な景勝地、歴史的な文化財も出てこない。歌舞伎も芸者もニンジャもカラテも出てこない。登場するのは我々日本人もよく知っている、ごく普通の日本の日常生活。小さなマンションで一人暮らしをして、アルバイトをしながら学校に通う。コンビニで買物をし、喫茶店で暇をつぶし、ゲームセンターで遊び、友達と待ち合わせてダイニングカフェで食事をする。そんな日本の生活スタイルを、香港の人気俳優たちがすっかりなぞってみせる。

 香港で工場の責任者をしている主人公ケイが日本に留学している恋人ジューンを訪ねてみたら、彼女は親友のサムと出来上がっていた……というありがちな物語。ケイを演じているのはレオ・クー、ジューン役はアニタ・チャン、サム役はサム・リー。喫茶店でウェイトレスのバイトをしながらモデルを目指すキキをスー・チーが演じている。サム・リーの仕事が「日本の漫画家のアシスタント」というのも面白い。『ブラック・レイン』でリドリー・スコットが日本を描いたときも「外国から見ると日本はこうなのね」という感じがしたが、『スイート・ムーンライト』にもそれに近い面白さがある。

(原題:天旋地恋)

2001年3月上旬公開予定 キネカ大森
配給:ギャガ・コミュニケーション 宣伝:FREEMAN


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