アメリカン・サイコ

2001/01/10 ウェスティンホテル東京(B2Fギャラクシールーム)
アメリカで話題になったベストセラー小説の映画化。
途中でゲラゲラ笑ってしまいました。by K. Hattori


 ニューヨークのエリート・ビジネスマンが、さしたる理由もなく次々に人を殺していくという物語。ブレット・イーストン・エリスの原作はアメリカの出版界にセンセーションを呼び起こしたというのだが、映画を観てもなぜそんなに話題になったのかはよくわからない。この小説の映画化はずいぶんと前から噂になっていたが、結局最終的な監督になったのは『I SHOT ANDY WARHOL』を撮った女流監督メアリー・ハロン。『I SHOT ANDY WARHOL』でウォーホルの工房やその周辺の人々を完璧に再現してみせたハロンは、今回の映画でも'80年代の浮ついたヤッピー生活を存分に描いてみせる。

 高い教育を受け、経済的にも何不自由なく育ち、仕事の面でも私生活の面でも十分に満足のいく暮らしをしているはずの主人公パトリック・ベイトマン。だがその心の中には人並みはずれた暴力衝動が眠っている。この物語が人に不快感を持たせるのは、「不幸な生い立ちや恵まれない環境が犯罪者を作る」という一般社会の常識とベイトマンの犯罪が、まったく矛盾しているからだろう。ベイトマンの生い立ちはこの映画の中にまったく描かれていないが、『サイコ』のノーマン・ベイツや『ヘンリー』のヘンリー・ルーカスのように、「親の歪んだ愛情が殺人鬼を生み出すのだ」といった簡単な因果関係では彼の犯罪を説明できない。彼の心は明らかに病んでいるのだが、その原因は「貧しさ」や「欠乏」の中にあるのではなく、「豊かさ」と「飽食」の中にある。

 '80年代後半のアメリカを舞台にした物語だが、同じ時代に日本もバブル経済の真っ只中。ベイトマンが人気のブランドやレストランやディスコの名前にやたら詳しいように、当時は日本でもみんなが雑誌や口コミで流行の店をチェックしていた。映画の中のベイトマンみたいな人は、僕の周囲にも大勢いた。その後バブルが崩壊してしまい、僕も職場が変わったりして、その頃のおしゃれブームみたいなものは霧散してしまいましたが、この映画に描かれているようなメンタリティは、たぶん現代の日本で暮らしている10代後半から20代の若者にも通じるものなんじゃないだろうか。

 ベイトマンが通りすがりにホームレスを殺す場面があるが、同じような話は日本にもあるよ。ベイトマンと仲間たちの名刺自慢大会は、若い連中が携帯電話を自慢し合うのとどう違うのか。まったく同じようなライフスタイルの範囲内で、ごくごく小さな差異を自慢し、嫉妬するベイトマンたち。じつにくだらない。しかしそのくだらなさは、何も'80年代のマンハッタンに限らない。顔を合わせても持ち物と流行の店と女の話しかしない男たち。社会について語っても、音楽について語っても、それはどこかの記事から引用した借り物の知識に過ぎない。こんな人間は、どこにだっているのです。

 主演のクリスチャン・ベールはともかくとして、秘書役がなぜクロエ・ゼヴィニーなのだろう。彼女が出てくるだけで、映画がマイナーっぽくなっちゃうよ。

(原題:AMERICAN PSYCHO)

2001年春公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:アミューズピクチャーズ


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