弟切草

2001/01/09 東宝第1試写室
現実とビデオとゲームが交錯する新感覚のホラー映画。
ビデオ撮影独特の色調が効果的。by K. Hattori


 天海祐希主演の『狗神』と同時上映される、角川冬ホラーの最新作。原作は長坂秀佳(しゅうけい)の同名小説だが、もともとは'92年に発売されたスーファミのソフトだそうです。2年前にはPSにも移植されたとか。僕はゲーム事情に疎いので、このあたりのことはまったくわからない。監督は『イノセントワールド』の下山天。プロデュースと共同脚本に仙道武則の名がある。制作協力にサンセントシネマワークスの名もあるし、全体にすごく仙道武則色の強い映画なのかもしれない。主演の斉藤陽一郎も、仙道プロデューサーの製作した『EUREKA』に出ていたし。もっとも角川=原正人=仙道武則というラインは、角川冬ホラーがヒットする発火点となった『リング』『らせん』と同じメンバーなんだよね。2本立て映画の場合、どちらの作品がメインなのかというのがいつも気になるんだけど、今回の『狗神』『弟切草』の2本立ては『弟切草』がメインなのかもしれない。いろいろと実験的なことをやって、意欲的なところも見えるし、作品としてのできもこちらの方が面白かった。

 幼い頃に親戚に養女に出されたヒロイン奈美が、面識のない父親から相続した屋敷を訪れるという話。そこで明らかになったのは、奈美の父親が異能の画家・階沢蒼一だったことと、奈美には双子の妹・直美がいたらしいということ。かつての恋人・公平と広い屋敷の中を散策するうちに、ふたりはミイラ化した少女の変死体を発見。これが直美の変わり果てた姿なのか? やがて奈美が何者かに襲われる。無人だったはずの屋敷に誰かがいる。

 映画は全編がビデオで撮影されているが、画質の悪さはあまり感じなかった。生身の実景、ビデオ撮影された光景、ビデオの再生画面、監視カメラ風の映像、パソコンに転送された画像、ゲーム画面など、同じシチュエーションを複数の視点から切り取っていく構成だから、フィルムのシャープな質感より、全編がビデオ撮りの方が全体がシームレスにつながっていく。どこからが現実で、どこからがビデオで、どこからがゲームなのかまったくわからない不思議な世界。特別ショッキングなシーンがあるわけでもないのだが、この映画が作り出している「現実の揺らぎ」「虚実の皮膜が解けていく感覚」はなかなか面白いものだ。今まで信じていたものが、あっという間に覆されてしまう驚き。これこそが映画だろう。

 もちろん「これは違うんじゃないの?」と思う場面もたくさんある。特に後半の種明かしやどんでん返しの部分は、それまでの緊張感や現実の揺らぎが消滅し、陳腐なメロドラマになってしまったような気もする。人間は理屈で説明の付かないことや、常識の間尺に合わないものに出会うことで恐怖を感じるのに、それを簡単な台詞で説明してしまうのは白けるぞ。しかしこうした「恐怖の中和作用」があるからこそ、この映画は安心して楽しめるのかもしれない。考えてみれば、『リング』の恐怖は『らせん』で中和されたではないか。案外こうした中和作用は、製作側の狙いなのかもしれない。

2001年1月27日公開予定 全国東宝系
配給:東宝


ホームページ
ホームページへ