小さな目撃者

2000/12/21 松竹試写室
少女が殺人事件を目撃して犯人に追われる。
だが彼女は口がきけなかった。by K. Hattori


 夫の出張と家族旅行を兼ねてアムステルダムにやってきたアメリカ人一家3人。家族のひとりがたまたま殺人事件の目撃者し、それを犯人に知られてしまう。口封じを狙う犯人たち。そんなヒッチコック風の巻き込まれ型スリラー映画だが、この映画の主人公はジェームズ・スチュアートのような頼りがいのあるお父さんではないし、ドリス・デイのような元気なお母さんでもない。この映画の主人公は、わずか10歳の女の子。しかも彼女は、口がきけないというハンデの持ち主なのだ。すぐ後ろから殺人犯が追いかけてきても、彼女は周囲に助けを呼ぶことさえできない。孤独な絶体絶命の危機だ。

 アムステルダムは世界有数の観光地だが、同時に世界有数の犯罪都市でもある。昼間は観光客や買い物客で賑わう町も、夜になれば飾り窓やポルノショップの怪しい照明に照らされ、合法・違法のドラッグを求めて世界中から集まってきたディーラーやジャンキーがたむろし、浮浪者やこそ泥や強盗や人殺しが路地をうろつく暗黒街に変貌する。この映画はそんな怪しい夜のアムステルダムが舞台。世界中でさまざまに語られている噂話がすべて本当なのが、アムステルダムという町なのだ。昼間の顔と夜の顔の二面性こそが、アムステルダムという町の魅力と活力。監督のディック・マース自身、アムステルダムに25年も住んでいるという。この映画の中では、今まで映画にあまり登場することのなかった夜のアムステルダムを、路地裏の軽食堂、飾り窓、ポルノショップ、麻薬患者たちの巣窟、浮浪者のねぐらになっている公園、運河の底、下水道の中まで全部見せてくれる。ここまで町のネガティブな部分を全面に打ち出しながら、最後は「アムステルダムは最高!」と思わせてしまう上手さ!

 オランダの首都が舞台で登場人物はオランダ人の方が多いのに、全員が英語で喋っている。これはこの映画が、最初からアメリカなどの国際市場を意識して作られているからでしょう。家族揃って安心してみられるものを目指しているようです。しかしそれでも、殺し屋が人間の頭を打ち抜くとか、自動車が倒れた人間の頭を踏みつぶして粉々に粉砕するなど、ギョッとするような残酷描写もある。このあたりは、ポール・バーホーベンを生んだオランダ映画界の特徴なのか? あるいはディック・マースという監督の資質なのか? しかしこうした残酷描写はいざとなったらカットできる場面にちゃんと置いてあるあたり、知能犯というか確信犯なんでしょうね。

 主人公のメリッサを遅う危険の連続は、なかなかうまく構成されていてまったく見飽きない。追いつ負われつのサスペンスと、銃撃やカーチェイスなどの派手なアクションの織り交ぜ方も上手いと思う。よくよく考えると変なところも多いんだけど、そこも演出でそつなく乗り越えてしまう。子供がひとりで犯罪者に立ち向かうという『ホーム・アローン』と同じアイデアだけど、それよりはずっと大人も楽しめる本格的なサスペンス・アクションになっている。サービス旺盛な映画で楽しめます。

(原題:DO NOT DISTURB)

2001年春公開予定 丸の内ピカデリー2他 全国松竹東急系
配給:コムストック


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