追撃者

2000/12/11 日本ヘラルド映画試写室
シルベスター・スタローン主演のアクション映画。
話の骨組みがガタガタすぎる。by K. Hattori


 '71年のイギリス映画『狙撃者』を、シルベスター・スタローン主演でリメイクしたもの。オリジナル版の監督はマイク・ホッジスで、主演はマイケル・ケイン、共演はイアン・ヘンドリー、ブリット・エクランド他。マイケル・ケインは今回のリメイク版にも、主人公カーターに敵対する脇役のひとりとして出演している。「なんでマイケル・ケインがこんな役に?」と思ったんですが、これはオリジナル版に仁義を切ったわけですね……。

 主人公ジャック・カーターは、ラスベガスで借金の取り立て屋をしている中年のチンピラ男。堅気ではないがマフィアの世界にも入りきれず、裏世界の周辺をうろちょろしている。そんな彼のもとに、故郷の弟が事故死したという知らせが届く。5年ぶりに故郷に戻り、事故周辺をかぎ回るカーター。弟は事故死ではなく、誰かに殺されたのではないかという疑惑。やがてカーターは、故郷の町に巣くう巨大な悪のネットワークと対決することになる。同じ頃ラスベガスからも、彼の命を狙う殺し屋たちがやってくる。カーターは絶体絶命のピンチ。

 なんだか動機が不明で、挙動不審な映画です。カーターが弟の葬儀のために故郷に戻るのはよしとしても、なぜ彼が弟の死に不信を抱いたのかがよくわからない。彼をそうした行動に駆り立てているのは、彼自身の中にある弟に対する負い目なのでしょう。やくざな生き方を選んだ自分に対し、堅実に幸せな家庭を築いていた弟。その突然の死は、「死んではいけない男が死んでしまった」というカーターの怒りを引き起こす。心理的な動機として、ここまではわかる。しかしカーターが「弟の死の裏側には何かある!」と確信するためには、これだけでは足りないのです。もう一押し、何か必要です。

 カーターにラスベガスから刺客が送られる事情も、やけに唐突なものに思われます。カーターは自分の雇い主の女房と寝ている。それがボスにばれたため、刺客を送り込まれるという筋立てです。でもこのエピソードには、カーターが女にどんな気持ちを持っていたのか、ふたりがどの程度深い関係だったのか、ボスがどんな性格なのか、女はカーターをどう思っているのかなど、肝心なところがまったく説明されていないのです。故郷の巨悪と、ラスベガスからの殺し屋の間で、カーターを挟み撃ちにしようという物語の主旨はわかる。でもそれを成立させるためには、ラスベガスの殺し屋側にもう少し切実な事情がほしいのです。この殺し屋は、あまりにも間抜け。

 主人公のキャラクターも周辺のキャラクターも、あまりにも薄っぺらすぎる。ミッキー・ローク、ミランダ・リチャードソン、そしてマイケル・ケインというスター俳優を周囲に配しながら、それらのキャラクターがまったく動かない。レイチェル・リー・クック、アラン・カミングといった若手も、これではまったく活躍の余地がない。脚本は『アメリカン・ヒストリーX』『ボディ・ショット』のデビッド・マッケンナ。監督は『死にたいほどの夜』のスティーブン・ケイ。冴えない映画でした。

(原題:GET CARTER)

2001年1月公開予定 東宝洋画系
配給:日本ヘラルド映画


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