リトル・ダンサー

2000/12/01 日本ヘラルド映画試写室
炭坑町ではじめてクラシック・バレエを習った少年の話。
子供版の『フル・モンティ』。ダンスに感動。by K. Hattori


 炭坑ストで労働者と警官隊がにらみ合い、組合員たちの怒号の中をスト破りの労働者を乗せたバスが通り抜けていく。1984年、イングランド北東部の小さな炭坑町の風景だ。主人公ビリーは11歳の小学生。母親は幼い頃に亡くなり、炭坑夫をしている父親と兄はピケットラインと自宅を往復する日々が続いている。多くの人たちが炭坑で生活する町では、出口のない閉塞感に町全体が押しつぶされそうになっている。そんな中、ビリーはバレエに出会う。町の体育館を借りたバレエ教室で、男の子の生徒はビリーひとりだけ。男の子はボクシングやサッカーに夢中になるものだと決めている父がビリーのバレエ熱を知ったら、たぶん死ぬほどぶん殴られるに決まっている。だからビリーのバレエ教室通いは、家族には絶対に内緒なのだ。だがある日偶然、父親はビリーのバレエ教室通いを知ってしまう。

 日本でも大ヒットした『フル・モンティ』の子供版みたいな映画。『フル・モンティ』の舞台となった町は鉄鋼不況にあえいでいたが、『リトル・ダンサー』の舞台になった町は鉱山不況で明日の見えない毎日だ。この頃のイギリス石炭事情がどうなっているかは、映画の中でバレエ教師の夫がさりげなく解説している。慢性的な赤字を抱える鉱山は、遠からず閉鎖されることが目に見えている。でも若い頃から鉱山でしか働いたことのない男たちは、それを頭でわかっていてもどうしようもないのだ。彼らには先行きの見えないストライキ以外、何もする事ができない。現金収入の途絶えた家は、家族の会話もギクシャクし、大切に守ってきたものも少しずつ崩れてくる。父親がピアノを壊して薪にしてしまうシーンは、そんな家族の様子を象徴していると思う。クリスマスの飾りの中で、父親が男泣きになく場面は悲しい。

 映画の原題は少年の名前である『BILLY ELLIOT』。物語はこの少年の目の高さから描かれていて、大人たちの世界にある政治闘争にはあまり深入りしない。それはあくまでも、少年の目に映る風景であり、少年の生活のバックボーンなのだ。ビリー役のジェイミー・ベルは2000人のオーディションの中から選ばれたまったくの新人で、6歳の頃からバレエのレッスンを受けていたという。腕白坊主の顔つきをした彼が、必死にダンスの練習に励む姿はなかなか説得力がある。見どころになるダンスシーンは2ヶ所。父親にバレエ教室通いがばれたシーンで踊る激しいダンスは、家族との葛藤の中でもがくビリーの心情を表した苦しみの踊り。もうひとつは、ビリーが父親の目の前で披露する、小さな体の中から全エネルギーを振り絞るかのようなダンス。父と子の無言の対決だ。振り付けにはタップの要素なども入っているので、クラシックバレエというよりミュージカル映画の雰囲気。

 ビリーがなぜバレエに惹かれたのかという動機がよくわからないのだが、そこさえ乗り越えてしまえばクライマックスまで一直線。最後のエピローグは不要だと思うけれど、これがあることで安心する観客も多いと思う。

(原題:BILLY ELLIOT)

2001年1月末公開予定 シネスイッチ銀座他 全国公開
配給:日本ヘラルド映画


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