アヴァロン

2000/11/30 日本ヘラルド映画試写室
仮想現実ゲーム“アヴァロン”に隠されたクラスSAとは?
映像にもはや新鮮味なし。話は退屈。by K. Hattori


 『機動警察パトレイバー』や『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』などの作品で、世界中のアニメファンに名を知られている押井守監督の最新作。ポーランドで撮影した実写映像を、最新のデジタル画像技術で徹底的にいじくり回し、アニメと実写の中間にあるような不思議な世界を作り上げている。雰囲気としてはシュワンクマイエルなどの外国アニメにも似ている。モノトーンで描かれた、シュールレアリズム絵画のような世界だ。路面電車が登場するシーンは、つい先日観たラウル・セルヴェの『夜の蝶』を連想した。ポール・デルボー風なのだ。

 舞台は近未来のヨーロッパ某国。日常に倦み疲れた若者たちは、ネットワーク型の仮想戦闘ゲームに熱中している。ヒロインのアッシュは、“アヴァロン”と呼ばれるそのゲームでずば抜けた腕を見せるプロのプレイヤー。既に最終フィールドのクラスAに達しているアッシュは、昔の仲間からひとつの噂を聞く。“アヴァロン”にはクラスAを越える最終フィールド、クラスSAが存在するというのだ。彼女の昔の仲間だったマーフィーはクラスSAをクリアできぬままゲームから脱出できなくなり、「未帰還者」と呼ばれる廃人として病院に収容されているという。はたしてクラスSAとは何なのか?

 脚本は伊藤和典。物語の方は、正直言ってどこが面白いのかさっぱりわからなかった。現実の中の虚構と、ゲームという虚構の中の現実が交錯する入れ子構造は、押井守らしいテーマなのかもしれない。でも僕にはそれがあまりにも観念的なものに思えた。アッシュたちプロのプレイヤーは、ゲームの中で得た得点が現金報酬として現実世界にフィードバックするらしい。現実とゲームの接点は、最初から用意されている。しかし僕はそうした説明をされても、登場人物たちがそこまでゲームにのめり込んでいく理由が納得できなかった。

 映像的には確かにすごいところもあるんだけど、この程度のものなら今はCMでも観られるんじゃないだろうか。「うお〜、すごいもの観ちゃったぞ!」という新鮮味はあまり感じない。ゲームの中に人間が入り込むという話は、「X-ファイル」第7シーズンの「ファースト・パーソン・シューター」というエピソードにも登場するし、この映像もなかなか面白かったりする。少し前に『ザ・セル』を観ていたのも、僕がちょっとやそっとの映像では驚かなくなっている理由かもしれない。『アヴァロン』の映像表現は、もはやまったく新しくないのだ。映像面に見るものがないのだから、僕としてはこうした映像を使って、どんな物語や世界観を作るかに興味がある。『アヴァロン』というタイトルはアーサー王伝説からの引用だが、ゲームのフィールドを次々にクリアしながら主人公がその背後にある真理を探究しようとする筋立ては、なにやら新プラトニズム的な世界観でもある。虚構の皮をひとつずつ剥ぎ取っていった向こう側に、どんな真理があるのか、それをこの映画の中から感じさせてほしかったのだけれど……。

(原題:Avalon)

2001年1月20日公開予定 渋谷東急3他 全国洋画系
配給:日本ヘラルド映画


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