楽園をください

2000/11/29 東宝第1試写室
隣人同士が殺し合う戦争の中で成長する若者たち。
アン・リー監督が描くアメリカ南北戦争。by K. Hattori


 名作『風と共に去りぬ』の背景にもなっている南北戦争で、アメリカは62万人もの戦死者を出した。これは建国以来、アメリカが関わったその他すべての戦争を合わせた犠牲者数より多いという。戦争は足かけ5年も続き、北軍の勝利で幕を閉じる。この戦争をアメリカ人は“CIVIL WAR”と呼ぶ。内戦という意味だ。主戦場は古くからの入植地である、アメリカ東部に集中している。南軍のロバート・E・リーや、北軍のグラント、シャーマンといった将軍たちが活躍したのも、ほとんどミシシッピー川より東の地域だ。この映画の舞台は、そこからはるか西にあるミズーリ州とカンザス州。当時のミズーリやカンザスは、アメリカの中心部から遠く離れたド田舎だ。しかしそんなド田舎にも、戦争の影響は現れる。軍隊同士の衝突はほとんどない。あるのは南軍派と北軍派に分かれた住民たちによる、血で血を洗う戦いと復讐だ。20世紀末のボスニアがそうだったように、昨日まで隣人だった人々が互いに殺し合うようになる。

 この映画の主人公たちは、ミズーリ州の南部側ゲリラ兵だ。年齢は10代後半から20歳代。若い兵士たちを演じているのは、『サイダー・ハウス・ルール』のトビー・マグワイア、『スクリーム』のスキート・ウーリッチ、『ベルベット・ゴールドマイン』のジョナサン・リース・マイヤーズ、『オーロラの彼方に』にジム・カヴィーゼル、『シャフト』のジェフリー・ライトなど。この当時の戦闘は『グローリー』や『ダンス・ウィズ・ウルブス』にも描かれているが、互いに顔の髭一本ずつまで見分けられるほど接近し、そこから大口径の銃でボカスカ撃ち合う。弾が当たると無茶苦茶痛そう。

 アメリカ史に残る戦争を一兵士の視点から描くというのは、『プライベート・ライアン』『パトリオット』などと同じ、最近のアメリカ映画の傾向だろう。この映画には「ローレンスの大虐殺」という有名な事件も描かれるが、それより丁寧に描かれているのは、戦争の中での兵士たちの友情であり、戦争を避けて平和に生きようとする人々の悲劇であり、過酷な歴史の荒波の中で子供から大人へと成長して行く少年の姿だ。アクションシーンにも迫力はあるのだが、胸のすくような爽快感というものとは無縁。主人公たちの属している南軍側が敗北することは誰でも知っているから、ある意味それは当然。監督のアン・リーも、アクションよりドラマ部分で本来の持ち味を発揮する人だし……。

 南北戦争を奴隷解放のための戦いという風に単純化している部分があって、それが黒人兵ホイトの立場を、かえって薄っぺらにしているような気もする。戦争の原因はもっと複雑。この戦争が奴隷解放戦争だったら、ホイトは自分の同胞を裏切った男ということになってしまう。この戦争は南部にとって「連邦からの独立戦争」だったし、北部にとっては「連邦制を維持するための戦争」だった。経済戦争であり政治的な争いです。それを奴隷制を巡る道徳論にしてしまうのは、ちょっと違うと思う。

(原題:Ride with the Devil)

2001年新春公開予定 シャンテ シネ
配給:アスミック・エース、日本ビクター


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